
副業は魔法少女ッ!
第8章 正義の味方のいないご時世
「ゆいかちゃんの代わりでいいよ」
「えっと、その……」
「いつか本当に好きになって、ううん、側にいてくれるだけでいい。生活のことは心配いらないし、なずなちゃんの気が済まなければ、知り合いの会社を紹介する。一緒に暮らそう?」
「……幸せに、なって、いいでしょうか……私」
なつるが頷く。
彼女の気配の染みついた部屋は、昨日初めて来た場所なのに、落ち着く。魔法少女の魔力を失くした彼女は、昨日にも増して人間らしく、親しみやすい。
他人の顔色を窺って、なずなは、自分が傷付かないよう無難な道を選んできた。もっと自由になるために、まずは、一番身近な人間に認めさせよう。
「なつるさんのお陰で、自分が好きになれそうです。なつるさんのことも、ズルい返事になっちゃいますけど、今ノーって答えを出したら、私は後悔すると思います」
なずなは彼女のブラウスの裾を掴む。
魔法少女だった頃、いつも送り届けてくれた。すぐるの件も、随分、相談したものだ。彼女のことを今より知らなければ好意を持てないというのはおかしいが、そう簡単に、気持ちは切り替えられない。それでも、彼女に甘える。
「とりあえず、すぐるくんとお母さん達に謝りに行って、説明しないといけなくて……付いてきてもらえますか?」
明るい未来が広がっていく。
窓の外は暗いのに、なずなからは、白昼のようにうららかな色を背にして見えるなつるが、二度返事で頷いた。
『副業は魔法少女ッ!』──完──
