ほしとたいようの診察室
第8章 入院生活は続く
「のんちゃん、調子はどう?」
毎日のように、誰かに聞かれるこの文言。
「良くも悪くもないです」
ぶっきらぼうにそう答えても、大海先生は怒らない。
「そう、それは良かった」
大海先生は深く頷くと、ひと呼吸おいて、話し始めた。
「治療の話、聞いてくれるかな、のんちゃん」
改まってそう言いながら、全てを見透かすような瞳に、吸い込まれそうになる。
わたしが恐る恐る頷くと、大海先生はゆっくりと話し始めた。
「ホルモン剤はちょっとずつ強くしていくって話、覚えてる?」
「……はい」
「うん。1ヶ月かけて、のんちゃんが本当は飲んでいたはずの薬の強さまで、上げていこうと思うんだ。点滴でね」
言いながら、大海先生は点滴を見やった。
つまり……そろそろ、もうちょっと薬を強くする、ということか。
吐いてしまった恐怖が、頭をかすめる。
「……」
「お腹の調子も見ながら慎重に進めて、なるべく副作用がでないようにするよ。吹田先生とも相談して、吐き気止めも処方する」
黙り込んでいると、大海先生はなんてことのないように言った。
「だから明日は、午後から処置室に来てね」
緊張で、ぎゅっと布団を握りしめる。
「……やだ……」
わたしがやっとのことで、声を絞り出すと、大海先生はふっと柔らかい声で言った。
「言うと思った。痛いことはしないよ。初日にやった治療は腹痛がでてからだから、明日お腹が痛くなければ、内診だけ。じゃあ、待ってるから」
それだけ伝えると、大海先生は病室を出て行った。
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