短編集 一区間のラブストーリー
第4章 短編その四
その時だった、
ジャリ、ジャリっと砂を踏みしめる音がして「こっちだ。こっちから声がした」と
誰かが近づいてきた。
『あいつらだ…』
小声でガキが言った。
『大丈夫、ジッとしてればいい。
あいつらは目が悪いからよく見えないんだ』と付け加えた。
クンクン、クンクン…
匂いを嗅ぎまくる音がする。
すぐそこまで来ていた。
「間違いねえ!!女だ!!女の臭いがする」
「ああ、そのようだ。
おや?男だ!男の臭いもする!…
くくくっ、ガキめ、女に男にしてもらったか?」
薄暗がりの中に見えたのは…
頭部は牛でありながら
人の身体を持つ二匹のケンタウロスだった!!
「きゃああああ~~~~!!!!」
私は思わず悲鳴を上げてしまった。
「そこか!!そこにいたか!!!」
見つかってしまった!!
「わああああ~~~!!!!」
私の上で身を潜めていたガキが
ケンタウロスに挑みかかった。
「逃げろ!女!!
川を下って、ここと同じようなとこを探して隠れろ!!!」
「邪魔だ!!どけ!!」
ケンタウロス達の角が
前後からガキを串刺しにした。
逃げろ!生き延びてくれ!!!
ガキの声を背に受け、
私は川の中を走りまくった…
そして数キロ先に
岩の割れ目を見つけ身を潜めた。
ガキ…殺されちゃったの?
ガキ…私のところへ来て…
『女…残念だけど、俺、死んじゃった』
心の声が聞こえた。
『でも泣かないで…俺は女の中にいる。
ついさっき芽生えた命だ…もう数ヶ月したら女の中から出るからまた可愛がってくれよな…』
待ってる、待ってるよ…ガキ…
私は愛しく自分の腹を撫でた。
第四話 完