兄と妹~本能のおもむくままに~
第1章 兄夫婦
『これじゃあ遅刻だわ』
美穂のむしゃくしゃした気持ちが
再びむくむくと顔を出しはじめた。
痴漢の男は首根っこを捕まれるように
駅長室の片隅に座らされた。
美穂もまたその対角線上のソファに
「どうぞ、お掛けになって」と座らされた。
「現行犯だからね!弁明の余地はないわよ!」
鉄道警察官は痴漢の男を睨み付けた。
俺はやっていない!と痴漢の男は叫んだ。
美穂はその声につられて
ようやく痴漢の男を見た。
イケメンではないが、雰囲気が兄に似ていた。
「その人じゃありません!」
美穂は思わず口走っていた。
「それに、私、誰にも痴漢されていません!」
美穂の告白に駅長さんが
『おいおい!』という表情で
連行してきた婦警を睨んだ。
「怖がらなくてもいいのよ。
貴女の学歴にも内申書にも
傷は付かないんだからね」
誤認逮捕となれば、今度は自分の立場がない。
婦警は何とか美穂に認めさせようとしたが
美穂は首を横に振り続けた。