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雨の降る夜は傍にいて…

第3章 9月の雨(September Rain)

 16 マスター②

 ふさぎ込んでいたわたしの心も、少し楽になっていたのだ。

「いやぁ、懐かしいなぁ…
 俺もさぁ、なかなかこの頃の話しする相手がいなくてさぁ、嬉しいわ…
 でも、みっきさん、かなり暗い顔で入ってきたけど…」
 男にでもフラれたのかなぁ…
 と、マスターは務めて明るく訊いてきたのだ。
 これが気遣いであるとわかったので、却って気楽に、嬉しくなった。
 そして、ほぼ直接話すのは初対面なのだが、彼の人柄なのか、不思議に、気楽に、正直に、今夜のガンの診断結果のショックの話しが出来たのである。

「……で、この巷を彷徨っていて、ここに偶然辿り着いたの…」

「いや、偶然じゃないな、必然だなっ」
 と、彼は急に真剣な顔でそう云ったのだ。

「えっ、必然って、何で…」

「いや、それは…」

 マスター曰く…
 人の出会いは偶然の積み重なりであり、必ずその出会いには意味があり、つまりは必然なのである…
 と、そう真剣な顔で語ってきたのである。

「えっ、そうか…必然か…」
 よくわからなかったのだが、なんとなく説得力があったのだ。

「誰か、偉い人の言葉なんですか…」
 と、わたしが尋ねると
「いや、俺の人生経験からの言葉です…」
 と、ヤケに真剣な顔で応えてきたので、わたしは急におかしくなってしまい、思わず笑ってしまったのである。

「うん、みっきさんはやはり笑顔がいいや、素敵だ…」
 そうマスターに言われてドキッとしてしまう。
 でも、この時、このマスターの言葉、会話、感じた優しい人柄に、このガン診断により落ち込んだわたしの心はかなり助けられたのであった。

 そしてこの夜からわたしはこの
『バー ウーッズ』 
 に通う。

 そして常連となった…







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