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雨の降る夜は傍にいて…

第6章  小夜時雨(さよしぐれ)…

 1 歪んだ恋愛観

「もおぉ社長ったらぁ、午後から仕事にならなくなっちゃったじゃないですかぁ…」

 この大塚浩司との出会いから、別れのきっかけとなった娘の入学迄の話しをザッとしたら、事務員の彩ちゃんがそう言ってきたのだ…

「あら、ごめん…
 だって、彩ちゃん聞き上手だからさぁ、ついわたしも調子に乗って話しちゃったのよね…」

「もう、わたしぃ、すっかり疼いちゃいましたよぉ…
 今夜、まぁくんに逢おうっと」
 彩ちゃんはニコニコしながら言ってきた。

 そう9年前に別れてついこの前に偶然の再会をし、また再び復縁してお付き合いを始めた彼、大塚浩司との過去の色々ないきさつと流れをザッと彩ちゃんに仕事をしながら話していたのである。

「まあ今日はそんなに忙しくはないからいいんじゃん」

「社長がぁそう仰るからぁ、わたしは構わないですけどぉ…」
 
「うん、でも今日は寒いわねぇ…」
 すっかり秋冷えで、特に朝晩の冷え込みがかなり進んできていたのであった。

「こんなに急に冷え込んでくるとぉ、社長ヤバいんじゃぁないんですかぁ…
 あ、でも今は彼がいるから平気なんでしたよね…」

「う、うん、まあ…ね」

 浩司と復縁できたから、こんな疼く夜にソワソワと彷徨わなくても済む様にはなったのではあるが…

 今度は彼は離婚してフリーになっているのであの禁断の不倫の背徳感や罪悪感というヒリヒリとした刺激が無くなってしまい、歪んだ恋愛観のわたしには色々と物足りなさを感じていたのである。

「まぁわたしもぉ、何回か不倫した事がありますからぁ、社長の仰るあのヒリヒリとした刺激の感覚はわかりますがぁ…」
 さすが経験豊富な自称ヤリマンの彩ちゃんである、わたしの想いには十分共感してくれていたのだ。

「う、うん…」

「でもぉ、社長ぉ…
 今までぇ、社長の迷走を見てきていますからよくわかるんですがぁ、それは贅沢な悩みですからねぇ…」
 ウチの会社は彩ちゃんとわたしの二人しかいない、そしてわたしはこんな彩ちゃんだからこそ信頼をし何でもある程度は話しをしていた…
 だからわたしの事は何でも分かっているし、理解もしてくれている。

 そして彩ちゃんの言っている意味もよぉく分かってはいるのである…

 だが、わたしはあの12年前の彼との不倫から、恋愛観が歪に、歪んでしまっていたのだ…




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