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雨の降る夜は傍にいて…

第6章  小夜時雨(さよしぐれ)…

 4 忍び寄る悲劇の足音

 9年前の夏の終わりに県内の中学、高校バスケット界隈に二つの衝撃の激震が走った。
 その一つ目はアンダー15アジア大会に於いて全日本チームが優勝し、そして大会MVPになんと大塚美香が輝いたのである。
 これは我が県のみならず全日本チームとしても二度目の快挙、いや、大快挙であった。
 そしてもう一つはその大塚美香を中心としたこの年の中学県選抜メンバーのベスト5人メンバー全員が、わたしの指導する高校にS級特待生としての正式入学決定のニュースであったのだ。

 これには我が県の高校バスケット界ベスト4の常連高校の他の3高校が大慌てをした。
 例年ならば中学県選抜メンバーは、比較的自然に上手くばらけてベスト4の4高校に別れて入学する傾向があったのだが、今年は我が高校独占となったのである。

『いったいどんなマジックを使ったんだい…』
 特にわたしの高校が昨年まで全く勝てなかったライバル高校の監督さんからは、そんな電話を貰った。

 だが今年から我が県の中学バスケット強化の為に招へいされ、ヘッドコーチ兼スーパーアドバイザーである元全日本アンダー15の監督であった安藤先生がその辺りを上手く押さえてくれたらしく、揉める事はなかったのである。

 その事実により一気に、わたしの高校の評価が上がり、また、期待値もかなり高くなったのであった。
 そしてそれはそのままわたしへのプレッシャーへと通じてくるのであるが、夏休みにそんな来春からの新入学メンバーが揃って練習に参加をし合同練習を数日間行った結果あまりにも素晴らしい相乗効果にプレッシャーどころか手ごたえしかなく、早く来春が来ないか、という位になったのである。
 そしてその練習により在校生部員が更に刺激を受けて、更なるチーム力のレベルアップに繫がっていったのだ。

 …と、いうくらいに公私の公であるバスケット関係は予想を遥かに上回る結果になっていったのである…が、公私の私に於いては来春に向けてのわたしにとっての悲劇が少しずつ忍び寄ってきていたのである。

 だが、わたしは間抜けな事に、バスケット関係が余りにも好結果へと流れていく状態に、プライベート面が全く無防備となり、馬鹿といえる程に何の危機感も感じず、いや、考えもしなかったのであったのだ。

 本当に、わたしは馬鹿で間抜けであったのである…

 

 

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