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雨の降る夜は傍にいて…

第6章  小夜時雨(さよしぐれ)…

 19 現実の重さ

 そんな事、とっくに分かっている…

 それでも、わたしは…

 わたしは…

 浩司と別れたくない…のである。


 だが、心の奥深くでは彼の云っている事は本当に分かってはいるのである、だけど、今日の今夜、この瞬間まで、本当に考える事から逃避していた、いや、拒否をしていたのであったのだ。

「もう…限界……だろう…」

「………………」

「ゆりが…
 美香が…
 二人が…
 成功して上手くいけばいく程に、限界であり、無理になっていく…
 もう、逃げ道は無いんだよな…」

 そんな事は…

 そんな事は分かっている…

 もうそろそろ限界なのも分かっている…

 逃げ道も無くなっていっているのも分かっている…

 でも…

 でも…

 でも、わたしは…

 いや、わたしには、『別れる』という選択肢は無いのだ…

「ひ、ひん……」
 涙が止めどもなく溢れ、嗚咽してしまっていた。
 そして改めて、再認識してしまったこのな現実の重さに心が潰れそうになっていたのだ。

 浩司と別れる…

 これからの明るい未来と引き換えに、浩司と別れる…

 でも…

 でも…

 果たして浩司と別れて、わたしの心とカラダのバランスは…

 この心身のバランスが保たれるのであろうか…

 この燃え上がる様な、ジリジリと、ヒリヒリとした心とカラダの疼きが、浩司という存在以外に解消できる事ができるのであろうか…

 浩司と別れる…と、いうことは、いわゆる普通の恋愛をするという事である。

 この約28年間生きてきて、初めてという位に心身共に満たされる快感を…

 絶頂感を…

 いや、エクスタシーを…

 感じた位であるのに、果たして浩司以外から得られるのであろうか…


 いや…

 それは…


 否である…

 あり得ない…






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