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雨の降る夜は傍にいて…

第6章  小夜時雨(さよしぐれ)…

 40 別れの朝 ②

「おっ、起きたか…」

 あっ、居た…

 浩司は居たのだ…

「なんて顔してんだよ…」

「えっ…」

 ドキドキドキドキ…

 わたしは本当に浩司が帰ってしまったと思いパニックになっていたから、激しく胸が高鳴っていた。

「なんかぁ、すっげービックリした感じの顔してるけど…」
 笑いながらそう言ってくる。

「えっ…
 だって…
 だってぇ…、起きたら居ないんだもん…」
 わたしは涙を溢してしまう。
 どうやら昨夜から涙腺が壊れてしまったようである。

「おい、おい、泣くなよぉ…」
 慌てて浩司はベッド上のわたしを抱いてきた。

「だってぇ、だってぇ、ひん……」
 我ながら情けなかった、だから、余計に顔を上げられなくなってしまっていたのだ。
 そして昨夜も散々泣いたのだ、おそらくは瞼は腫れ、むくみ、目も当てられないほどの不細工な起き抜けの顔になっているだろう…
 と、自覚していたのである。


「さすがにさぁ…
 今朝は、いつもみたいには黙って帰らないよ…
 いや、帰れないよ…」
 そうなのである、今までは、逢瀬の夜は、殆どわたしが寝落ちしてしまい、そして浩司はそんなわたしを起こさない様にそぉっと帰る…と、いうパターンであったのだ。
 だからこそ、今朝のわたしは余計にそう思い、本気で帰ってしまったと、パニック状態になってしまったのである。

「大丈夫…
 ちゃんと居るよ…」
 浩司はそう囁きながら、わたしをきつく抱き締めてくる。

「ああ…こうじぃ……ひん…」
 更に涙が止め処なく溢れてくる。

 ああダメだ…

 涙腺が、完全に壊れてしまった…

 鼻水まで垂れてくる。

 最後の…

 別れの朝なのだから…

 きれいに…

 綺麗で別れたい…

 既に、昨夜、寝落ちする直前に腹は、覚悟は決まった、いや、決めたのだ…

 わたしより、浩司の方が何倍も辛い筈なのだから…






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