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雨の降る夜は傍にいて…

第7章 五月雨(さみだれ)

 12 変身

「じゃあまずはファッションからだわねぇ…」
 そう真理さんは云ってきた。

 わたしはそれまでバリバリの体育会系であり、それこそは本当にバスケしかしてこなかったし、学生生活もほぼバスケ中心であったから、ジャージは沢山持っていても私服はほぼジーパンしか持っていないといえたのである。

 スカートなんて、制服しか持っていなかった…

「うーん、髪型は伸びるの待つしかないからなぁ…
 うん、そう、とりあえず渋谷に行こうかぁ…」
 そう真理さんは呟き、わたしを渋谷に連れて行ってくれた。

 パルコ…
 109…
 スペイン坂…
 ファイヤー通り…
 等々、ファッション発信地であるエリアの、そして真理さんの知っている各店舗を周り、かなりの数の洋服を買った。

「ゆりはお金持ちなんだねぇ…」
 真理さんがセレクトした洋服のほぼ全てを迷わずに買ったから、そう言ってきたのである。

「ううん、そんなお金持ちでは無いけけどさぁ…」
 実は、クレジットカードの家族カードを持っていたのだ、そしてそのカードは毎月の仕送りの足しに、と、父親から手渡されていたカードであった。
 だが、ほぼバスケ中心の生活であったし、本当に毎日の練習、試合、全日本の合宿等と忙しくて、毎月の仕送りも遣う暇がなく余る程であった位であったから、このカードも使った事が無かったのである。

 だから、こんな時に遣わなくては…
 そう思って、思い切って遣ったのだ。

「大丈夫なの…」
 
 そう、全ては大学デビューの為に…

 今風の女子大学生に変身する為に必要なのだ。

「そうなんだぁ、じゃあ次は化粧品ね…」

「うん…」

 やはり、それまでのわたしは化粧なんてする暇もなく、ほぼ毎日がスッピンであり、二本程の口紅や、寝る時の乳液や、ニキビ予防のクリーム等位しか持ってはいなかったのである…

 だから、こんな数々の洋服や、沢山の化粧品等を買うという事が…

 楽しくて、愉しくて、仕方がなかったのであった。

「うわぁ…」
 某化粧品コーナーで、美容部員のお姉さんに化粧してもらい、鏡を見た瞬間に、そんな声を漏らしてしまう。

 その鏡に映っているわたしは、わたしではなく、別人であった…

「うわぁ…
 まるで…変身だわ…」

 思わず、そんな言葉が漏れてしまう…





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