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雨の降る夜は傍にいて…

第2章 春雷

 23 加藤先生

 ああ、今日は野球部はこの春雷の大雨で室内練習か…

 わたしはバスケ部の練習を指導しながら、体育館の二階通路を走っている野球部の姿を見ながらそう思っていた。

「美紀谷先生、おじゃましてますね」
 と、野球部顧問の加藤先生が声を掛けてきたのだ。

「あ、先生、大丈夫ですから…」
 この加藤先生はわたしが高校生時代からの先生であり、わたしは現代国語を教えて貰っていたのである。

「そういえば美紀谷先生は、木村と同級だったよね…」
 ドキッとした。

「あ、はい、木村ただし…」

「そう、アレ、弟だよ…」
 加藤先生はそう云いながら、木村啓介を指を指す。

「あ、はい、体育の授業で知りました」

「本当、そっくりだろう、私も入ってきた時にビックリしたよ」

「わたしもです…」
 今もそうである、体育館を走っている啓介くんの走る姿はあの頃のただしそっくり、いや、本人そのものなのであるから。

「でも特進クラスなんですよね…」

「そうなんだよ、勉強もできるんだよ」

「野球は…」

「野球も巧いよ、多分、当時のただしよりいいんじゃないかなぁ」

「そうなんだ…」
 それはすごいわ、勉強も野球もなんて…

「ただ…」

「えっ、ただ?」

「うん、なんか、今イチ吹っ切れてない部分があるらしくてさ」

「吹っ切れる…」

「うん、それは昔のただしにもあったんだが、ある日を境に急に吹っ切れたっていうかさ…」

「…………」

「ま、啓介も、その内に兄貴みたいに吹っ切れるとは思うんだがねぇ…」

 わたしにはなんとなく、加藤先生のその吹っ切れる、という意味が分かったような気がしていたのだ。

 吹っ切れる…


 それは青春の…

 性春のエネルギーの爆発、解消、発散の意味なのだ…

 わたしもそうだったから…

 あの水曜日の夜を経て、確実にわたしと、ただしも、プレイスタイル、キレが変わったのだ…

 多分、啓介、啓ちゃんもそうなのだ…







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