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雨の降る夜は傍にいて…

第2章 春雷

 28 タイムスリップ

 ゆり姉ちゃんは無意識のようであったのだ、おそらく彼女の意識は一瞬にして7年前にタイムスリップしたかのようであったのである。

「あ……」
 俺は夢中になって唇を合わせていく。
 まるで夢の中にいるようであった。
 そして舌先を唇に割り込ませていく。

 一応、キスだけは経験済みであったのだ。

「た、たーちゃん…」
 そう兄貴の名前を呟き、ゆり姉ちゃんはすっかりカラダの力が抜けたように俺に身を預けてきたのだ。

「ゆ、ゆり…」
 俺は心が震え、そのカラダ重さに、その柔らかい感触に、心が蕩けてしまいそうになっていた。

「ゆり姉ちゃん…」
 そしてそう呟いてしまったのだ。

 やばい、つい…

 これが現実に戻す引き金となってしまう。

「あっ…」
 すると、突然、ゆり姉ちゃんは夢から醒めたかの様に反応してきたのである。
 
 やばい…

 でももう構わなかった、俺はそのまま唇を合わせ、舌を指し入れ、今の自分の熱い想いをゆり姉ちゃんの中に流し込んでいったのだ。
 
「あ、だ、ダメ…」
 だが、夢から醒めてしまったようであった。
 必死に唇を離してきたのだ。

「ゆ、ゆり姉ちゃん…」

「ダメよ、離して…」
 もう完全に、ゆり姉ちゃんの意識は現実に戻ったようであった。

「あ、け、啓ちゃん、だ、ダメよ…」
 そして必死にもがき、俺を振り払う。

「あっ…」

「ご、ごめん…」

 そして停電が急に復旧し、管理室の電気が点いたのだ。

「あっ、啓ちゃん…」

「ゆり姉ちゃん…」

 わたし達は一気に夢から醒めたかの様にバツが悪く、互いに下を向いてしまう。

「啓ちゃん、ごめん…
 なんか、つい、昔に戻ったみたいな錯覚しちゃって…」
 ゆり姉ちゃんは必死に言い訳をしてくる。

 いや違うのだ、あの停電の暗闇が俺をそそのかしてきたのである…

 ゴロゴロゴロゴロ…

 遠くで悪戯な春雷が小さく鳴っていた… 






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