片恋は右隣
第2章 ワンナイトじゃないんですか
「ぷっ····三上さん、生真面目だよね。 昔から。 だから誘われて驚いたけど·····そういうのもあった? 緊張してたの」
少し笑いの含んだ表情で見てくる。
でも昔みたいに、仲のいい友だちに対して接していた親しみのある彼の目だ。
それがわたしに向けられてることに感慨を覚えた。
「おれ、彼女に浮気されたんだよね。 だから今は三上さんみたいタイプがいいなって思ってるんだけど」
彼の言葉に目を見張った。
彼女と別れたばかりで?
頭を切り替えて、そんな風に欲情できるものなの?
「わたしは逆に倉沢さんには憧れてたけど……なんか…そういうのは、ちょっと不安…」
というか、一度しただけで付き合う、とか?
簡単にそんなことを言ってくる倉沢さんに警戒心の方が勝る。
「おれに? なにが不安? ああ、結構一途だし逆にウザいかも。そういうの平気?」
「·····得意かも·····けど、わたしは結構面倒臭いよ」
避けるのが得意という意味だけど。
「おれも得意かな? いまも結構面倒臭いけど嫌じゃないし」
「そ、そっか?」
「うん。 じゃ週末デートしよう。 遅いから帰んね、おやすみ」
頭からすぽっとTシャツを被り、部屋でお茶でも。
なんて言おうとする前に、彼は既に玄関でスニーカーを履いていた。
「おやすみなさい·····」
倉沢さんが手を振ってにっこりと笑顔を残し、去っていく。
それを呆けた顔で見送った。
·····なんというか、隙のない陽キャだ。
早くから彼女が途切れなかった理由がわかる。
倉沢さんは深く考えるより行動派っぽい。
わたしとは清々しいほど真逆のタイプ。
そもそも彼らはなんで頭と口が一体化してるんだろう。
思ったことに自信がないということはないの?
こんな状況になったというのに、全く素直に喜べない自分がいた。
彼のそんな軽口よりも。
あんなのが独身ってバレたら会社でもモテるに決まってる。
わたしは明日からどう戦えばいいんだろう?
そう考えると胃が痛くなった。