片恋は右隣
第5章 わたしを愛してくれるんですか
「……最初っからそう言えばいいだけなのに」
じとっと上目遣いで彼をみると「そう?」という表情で、彼が立ててた膝に肘を置き頬杖をついた。
「もう少しわたしを信用して欲しいんですけど。 あと出来れば、欲を全面に出すのはやめて下さい」
「おれは美優みたいに、セックスのときだけ欲丸出しになるなんて器用なこと出来ないからなあ。 とはいえね、そういう美優もおれからしたら堪んないわけで」
真面目な顔でそういい、ぱくぱくと口を開いてるだけのわたしのおでこを軽くつつく。
「普段でも好きって言いなよ。 そしたら少しはましになるかもね?」
立ち上がり先にバスルームに向かう倉沢さんの後ろ姿を恨めしく見やりながら、憎ったらしいけど彼は正しいかもしれない。そう思った。
片思いしてた倉沢さんと出会ったのは偶然の出来事。
けれども彼が視線を返してくれる現実は当たり前なんかじゃない。
気持ちをいっぱいこめて触れられるから、わたしはいつも正気じゃなくなるんだろう。
いまのわたしが好きだと彼は言う。
わたしは……たぶんわたしは、むかしの憧れなんかとっくに超えてて、それで言葉が見つからなかったんだ。
あらためて、彼にきちんとそう伝えようと思う。
恋する人ってのは、なんだかんだって、ざんねんな生物。
今晩寝落ちるまぎわでも、こっそりとベッドのなかで訊いてみたら彼はどう答えてくれるだろうか。
倉沢さん、こんなわたしでも愛してくれますか────?
[完]