片恋は右隣
第3章 ちょっと先走りすぎじゃないですか
「おはようございます!」
「あ、おはようございます……」
いつもより勢いよく挨拶してきた倉沢さんは今朝も魅力的だ。
そんな彼を見ないようにわたしはしばらく粛々と仕事を続けた。
でも胸の鼓動がうるさいし、過呼吸気味でどうもはかどらない。
小さく息をつき、テキストに今日のノルマを書き出して、事務的に進めることにした。
やっと午前が終わりそうな時間に、なにやら右側から視線と気配を感じ、反射的に身構えた。
「三上さん、これ掲示の人事発令みました? 僕来週から企画部配属って。 色々お世話になりました」
「良かったですね」
それは心から良かったと思う。
前を向いてても視界の端に入る倉沢さんが心臓に悪い。
「第一希望じゃなかったんですけどね」
「そうなんですか」
そして彼がなんだかわたしに対し多少親しげになっている。 ような気がする。
本当に器用な人だと感心する。
……企画部。
若い女の子が多いんだよね。
社内一可愛いって、あの子とかあの子とか。
「…………」
心の奥がもやってする。
そして昨晩のことなんか、迷いも悩みもないみたいに、マイペースで話しかけてこようとするこの人ってなんなの。
「僕、そもそも専攻が」
「あの、すみません。 わたし打ち合わせがあって」
──────ダメだ。
早々に白旗をあげ、中途半端な言葉だけを残して、わたしは逃げるように席を立った。