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恋、しません?

第1章 第一話 男友達の家政婦致します

 終始陽気な雨を相手に、十秒ごとに、もう帰ろうかと回れ右する菊子は直ぐに雨に引き戻され、夜の繁華街にひっそりとあるBARへと引きずり込まれた。
 BARのカウンター席で雨がマスターに「彼女に合うカクテルを」と頼むとマスターはシェイカーに正体不明の酒達とソーダを投入してカクテルを作ると琥珀色のカクテルを菊子の前に滑り込ませた。
 空きっ腹にいきなりアルコールは、ちと辛いと思いながらも、しぶしぶと菊子はカクテルを飲んだ。
「美味しい」
 菊子は、それからナッツやサラミを摘みにお酒を飲み続ける事になったのだった。
 酒の力は恐ろしく、菊子の気持ちをハイにしてくれた。
 雨に絡み、マスターに絡み、他の客にも絡みながらの晩餐は永遠かと思われるほど続いた。



「ああ、これからどう生活していけばいいのかしら困ったわ」
 退職金は出たし、当面の生活には困らないが、これから就職先を探さなければならない事を考えたら菊子は憂鬱だった。
 菊子にとって、面接は地獄だ。
 今までの仕事も、何件も面接をしてやっと採用されたのだ。
 またそれをやり通すだけの自信が菊子には全く無かった。
「菊子なら、直ぐに次の働き先が見つかるだろう」
 雨はシャンパンを傾けながら言う。
 そんな雨を菊子は憎々し気に細い目で見る。
「無責任な事言わないで下さい。今までの会社に入るまで、大変だったの知ってるくせに」
 会社の採用が中々決まらずに、菊子は雨にも大分相談をした。
 やっと前の会社に就職が決まった時は雨が盛大にお祝いしてくれたものだった。
 まさかその事を忘れたのではあるまいか、と、拗ねた顔をする菊子。
「ああ、そうだったな。なぁ、菊子、ならさ、家で家政婦として働かないか?」
 突然の提案に菊子は目を見開いた。
「何を冗談を言ってるんですか?」
「冗談なんかじゃないよ。家で雇っていた家政婦がこの間辞めてな。それで困ってたんだ。菊子さえ良かったら、次の仕事が見つかるまでどう?」
「え、え、ええ。それは凄く助かりますが」
「住み込みになるけど、大丈夫か?」
「や、家賃は?」
「いらないよ」
「うーむ、どうしよう」
 とっても美味しい話だ。
 しかし、友達の家の家政婦になるというのはいかがなものか。

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