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恋、しません?

第1章 第一話 男友達の家政婦致します

「菊子!」
 雨に呼ばれて、ふと我に返り、「はい」と返事をして菊子は雨の下へ小走りで行く。
「何です? 目黒さん」
 菊子が言うと、雨がチョコレートのお菓子の並んだ棚を指さした。
「棚の上のお菓子、取って欲しくてさ」
 雨の指先は棚の一番上にあるスティック型のチョコレートのお菓子を指していた。
 なるほど、車椅子の雨では取ることが出来ないのだ。
「今、取りますね」
 菊子は手を伸ばして棚からチョコレートの箱を取る。
「ありがとう」
 満面の笑みを浮かべる雨。
 こんな事でそんなに喜んでくれるならいくらでも、と菊子は思った。
「これ、かごに入れちゃって良いんですか?」
 菊子が訊ねると、「ああ」と雨。
 菊子がチョコレートをかごに入れている間、雨は真剣な顔でお菓子の棚を見ている。
「まだ何かお菓子買うんですか?」
「いけない?」
「いけなくは無いですけど、好きなんですか? お菓子」
「うん、好き」
 子供みたい、とは菊子は口に出せない。
 雨のお菓子選びに付き合う事数分。
 結局、お菓子だけでかごの半分は埋まってしまった。
「こんなにお菓子ばかり買って大丈夫なんです?」
 目を狐の様に細めて買い物かごを見ながら菊子は言う。
「大丈夫って、何の心配をしてるんだ?」
 雨の台詞に菊子は更に目を細めて、「はぁ……目黒さん、せいぜい頑張って今の体型を維持して下さいね」と、つんとして言った。



 菊子は雨の後についてスーパーの売り場を巡り、食料調達をした。
 雨の手が届かない所にある物は菊子が取り、そうで無い物は全部雨が取った。
「あっ、そうだ。日向さんに醤油を頼まれていたんでした」
 思い出して菊子が言うと、雨は、すいすいと車椅子を動かして醤油が並んでいる売り場まで菊子を案内した。
 このスーパーの事なら雨は何でも知っている様だった。
 棚に並ぶ、ピンからキリまでの醤油を眺め、菊子は雨に、「どの醤油ですか?」と訊ねる。
「これ」
 そう言って雨が指差したのは一番高い醤油だった。
「こ、これですか! た、高いですよ!」
 菊子は醤油の値段に目玉が飛び出しそうになる。
「うん、高いね。俺は普通の醤油で良いと思うんだけどね。でも、日向が調味料にこだわっててさ。うちではこの醤油なんだよ」
「はぁ、そうですか……」

 私なんか、醤油なんて一番安いのを買うんですけど。
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