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I‘m yours forever

第4章 美月は何も知らなかった 前編





「............。いや、今のは脅迫めいた言葉でお前を萎縮させた私が悪い。怖かっただろう?すまなかった。」


「だ、大丈夫です。社会人だからって、こんな時間までほっつき歩いているのもどうかしてますし....。」


「だとしても我々には時間的制約があるだろう。例え夫だとしても、お前の貴重なプライベートに水を差すような発言は慎むべきだった。許してくれ。」


「ゆ、許す?黎一さん、私そもそも怒ってないので、そんな深刻にならなくても....。」


最初、連絡が来ていない事を高圧的に攻めた黎一さんの声とは思えぬ程、気弱な声を出す彼は別人のようだ。そんな彼を励ます私だったが、その心は「何故急に?」という疑問で埋め尽くされていた。


「そうか...なら良かった。迎えに行こう。場所は何処だ?」


「柚子の家という居酒屋でして...。すいません、駐車場は無い所なんです。」


「近くのコインパーキングを利用すればいいだけだ。問題無い。三原先生の状態は?」


「あ、えっと...泥酔状態で、千鳥足でしたが何とか外まで引っ張ってきた状態で....。」


「なるほど。では車を置いてから私がそこへ向かうとする。寒いかもしれんが、お前は三原先生を支えながら、その居酒屋の前で少々待っていてくれないか?」


「は、はい。わかりました。」


「飛ばして行く。ではまた。」


「あ....ちょ...全くもう....」


安全運転でお願いしますと伝える前に速攻で電話を切られた為、私の不貞腐れたような声は彼に届く事なく、冷えた空気の中へと溶けていったのだった。




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