I‘m yours forever
第4章 美月は何も知らなかった 前編
それから5分後、黎一さんは私達の前に颯爽と現れた。どう頑張っても10分はかかる道路を5分だ。本当に車を飛ばしてきたのだろう。
泥酔状態の三原先生に近づき、軽々と抱き上げた彼に「こっちだ。」と案内されて無事、コインパーキングへと辿り着く。
黎一さんは、後部座席に三原先生を座らせた後、住所の確認をさせる。大分呂律が怪しかったが、何とか彼女の住所を特定出来た私達は、黎一さんの車に乗って目的地へと向かった。
着いた場所は、レンガ造りのヴィンテージマンションだった。マンション前に車を留め、車内灯を付けた黎一さんは、三原先生に鍵を出すよう指示を出した。
「んーーー?分かったよぉ〜ん。あ、はーい、あった。」と子供のような声を上げながら、三原先生は鍵を差し出す。黎一さんはその鍵を受け取りスーツのポケットに仕舞うと、運転席を出て三原先生が座る後部座席へと向かった。
「すまないが、三原先生を部屋まで運び戻って来るまでの間、暫く待っていてほしい。」
「ぜ、全然大丈夫です。率先して介抱役になって下さり、ありがとうございます。助かりました。」
感謝の言葉を述べる私へ「すぐ戻る。」と言い残し、三原先生を背負ってマンションの中へと向かっていった。
付けっぱなしだった車内灯を切って、待ち時間を潰す為にスマホを弄る。
「待たせたな、美月。」
駆け足で車へと近づき、ドアを開けて運転席へと彼が戻ったのは、あれから15分が経過してからの事だった。
おかえりなさい。お疲れ様。
そう淀みなく言おうとした瞬間、甘い香水の匂いが私の鼻先を掠めた。
三原先生の香水だ。
お菓子のような甘い香りと、さわやかな花々や果実の香りが重なり合ったような、甘い誘惑へと惹き込まれるような匂いだった。