I‘m yours forever
第4章 美月は何も知らなかった 前編
「お前の天然と鈍感は厄介だな。」
「す、すみません...。教えて頂く事は出来ませんか?」
「これ以上は無理だ。だが少なからずお前の不安は払拭出来ただろう?頼む、忘れてくれ。この通りだ。」
彼はそう言うと、首を垂れる。
黎一さんにかつてここまで頼み込まれた事は一度も無い。余程、言いたくない事なのだろう。
「わ、分かりました....。」
このまま問い詰めれば、彼の本心に辿り着けただろう。けれど、ベッドシーツを握りしめる彼の手が視界に入った瞬間、彼の全てを暴く事は残酷なのだろうと、そう思ったのだ。
チクリと胸が痛んだが、致し方ない事だと言い聞かせる。
「ありがとう...美月」
そう礼を述べた彼の表情は随分疲れ切っていた。
私の頬に軽いキスが2、3度落とされる。
再開かと思われたが、キスが止むと私の身体から彼は退こうとした。
「おい....面目を失った私にお前を抱けと?
すまないが、今日は無理だ。」
咄嗟に黎一さんの腕を掴んだ私の意図を瞬時に理解した彼は、そう吐き捨てる。
また胸の痛みを感じながらも、私は彼の腕を解放した。
そのままベッドから降りると私に視線すら寄越さず、黎一さんは足早に出て行った。
去る時、必ず彼は私の表情を確認するのに、今日はその余裕も無かったという事なのだろう。
少なくとも子供が原因で、今後離婚に発展する事はないのだろう。
彼の本心を最後まで聞けなかったが、それが分かっただけでも充分ではないか。
寂しさで一杯な胸中、何とか私はそう自分に言い聞かせると、夫婦用の寝室を出て、私専用の自室に戻る。
酒が入った身体を柔らかい弾力のベッドが受け止める。瞼を閉じた瞬間、襲ってきた心地よい睡魔に、私は心底安心したのだった。