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孤高の帝王は純粋無垢な少女を愛し、どこまでも優しく穢す

第38章 離別

=Reika=

新年。

大みそかの夜に何とか仕上がったおせちをテーブルに並べ、お正月のあいさつの準備が整った。

遥人さんと私は子供二人を連れて上階に上がり、一緒にお屠蘇を、と誘いにおじさまの部屋のチャイムを鳴らした。

が、いっこうに返事がない。

「合鍵で入ろう」

何かを察知したように目尻をひきつらせ、遥人さんは持っている鍵でドアを開けた。

「おじさま?いらっしゃらないの」

年越しの瞬間は我が家で過ごし、新年のあいさつを交わしてから別邸にもどったおじさまが、朝からどこかに出かけたとは思えなかった。

私はリビングとキッチンを見て回った後、バスルームに向かっておじさまを呼ぶ。

気配がないのでまだ寝ているのかと思い寝室をそっと開けると、おじさまはまだベッドに居た。

「おじさま、新年早々寝坊?」

私は無理やり微笑んでおどけた感じで言ったけど、つま先はひんやりとしてお腹がぎゅっと重くなった。

恐る恐る近づいてみると、息をせずに寝ているおじさまがいた。

「…おじさま」

頬に手を当てると冬の朝の空気と同じようにひんやりとしていた。

「おじさま、起きて。起きて。おじさま…おじさま!!」

遥人さんが駆け寄り、すぐさま救急車を呼んだ。

「おじさま!」

私は叫び続けた。

遥人さんは耀と彩を抱いて部屋を出て行く。

おじさまの頬や肩、腕をさすって体温を取り戻そうとしたが、体が異様に硬く、ベッドの上で私が揺さぶるのに合わせて体全部が左右に揺れた。

「いやよ…いやよ…」

おじさまの布団に入って躰をかき抱き、しがみついた。

半開きの乾いた口に唇を押し当てた。


おじさまの躰を温めようとしても、私の体温はおじさまの肌を通らず冷たい布団が吸い上げて再び冷たくなってしまう。

私は震えて汗をかいて何かを叫んでいた。

そのうち救急の人たちが事務的な口調で何かを話し合いながらやってきて、私をなだめ、おじさまから引きはがした。

私は抵抗した。

この事実に全身で抵抗を試みた。

おじさまが動かないという現実の世界に張られた幕を引きちぎって、おじさまが優しく微笑んでくれる世界に身を投じたい。手足をばたつかせた。

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