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孤高の帝王は純粋無垢な少女を愛し、どこまでも優しく穢す

第38章 離別

放心状態になった私は自宅の寝室に戻された。

駆け付けた香さんが耀と彩を抱き、遥人さんがおじさまの部屋で警察に対応してくれた。

遥人さんの秘書の男性がやってきて、私を抱きしめた。まるで私の目から涙がこぼれてしまわないようにと押さえつけるように、私をきつく抱きしめた。



翌日からは、急な状況の変化に不安な様子を見せる耀のために、いつもどおりの自分を装って過ごした。

喪主となる詩織さんが高齢のため、葬儀の支度や事務的な手続きは、遥人さん、秘書の浅木さんによって進められた。

私は子供を公園で遊ばせたり、近所に買い出しに出かけたりとできる限り日常に近い暮らしを過ごそうと努めた。


それでも夜、布団に入ると勝手に涙がこぼれた。

何度も寝返りを打ち、明け方になって少しまどろむと、おじさまの夢を見た。

本当はおじさまは死んでなんかいなかった、という夢だ。

目覚めて、また改めて現実に引き戻され、そのたびに心臓が音を立てて割れて砕ける心地がした。



毎日のようにおじさまを夢で見るうち、夢の中ではおじさまがいつもと違う場所に居ることに気づいた。


暗い板張りの部屋で、壁も窓ガラスもない、まるで広大なあずまやのような建物の、一段高いところにおじさまはいる。

おじさまはなぜか髪を剃っているらしく丸い頭をしていて、端正な顔立ちがかえって際立っていた。

おじさまが向いている方向には美しい庭があり、ある時は桜の花びらが石庭の上を舞い散っていたり、楓が空を燃やすように赤い葉を茂らせていたりする。

鋭い顔つきのおじさまはゆったりと私の方を向くと、途端に柔和な笑顔になる。

そして、私の頬を撫で、こういうのだ。

「お前を待っているよ」

おじさまはどこかで私を待ってくれている、と思えるようになると、毎晩夢でその契りを交わすことが楽しみになった。

それにつれ、日常生活を穏やかに進めることができるようになった。

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