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孤高の帝王は純粋無垢な少女を愛し、どこまでも優しく穢す

第39章 愛憎

=Reika=

告別式を終えてひと月ほどたち、少しずつ家族四人の生活になじみ始めた頃のことだった。

耀と彩を寝かしつけ、遥人さんの帰宅を待ちながら編み物をしていると、玄関が開いた。いつになく乱暴で、尖った音だった。

「遥人さん、お帰りなさい」

鞄を受け取ろうとしたが遥人さんはそのままリビングにまっすぐに進み、テーブルに置いた鞄から紙を一枚取りだす。

彼の緊張した顔を覗き込んで私はただならぬ空気を感じた。

「黎佳…いままで嘘をついていたのか」

私は紙を渡された。そこにはDNA鑑定の結果が示されていた。

「僕は耀の父親じゃない」

私は体中に汗が噴き出て手足がわなわなと震えた。

「…おじいさまと関係を?」

「どうしてそんなことを急に?これまで仲良くやってきたじゃない」

「そうだね。君にまんまと騙されつづけて、真実も知らずにへらへら仲良くしていたよ。でも、おじいさまが亡くなった時の君の様子を見て僕は直感したんだ。きみは親類としてではなく、それ以上の愛情を、おじいさまに感じているって」

語調を強め、最後は吐き捨てるように言って鑑定結果の用紙を力任せに丸めて床に叩きつけた。

「愛してるの。おじさまのことも遥人さんのことも」

「そんな都合のいい話が通ると思うか。きみがやってることは不倫なんだぞ、わかってるのか」

「そうね。遥人さんが正しいかもしれない」

「かもしれないってなんだ」

「私は、遥人さんを愛して、おじさまを愛したかったの。他の人は、こんな気持ちは起こらないわよね、きっと」

「ああ。そうだよ。そういうのを淫乱ていうのさ」

初めて見せるいら立ちを抑えずに荒っぽい声を出す遥人さんのまえで私はかがみこんだ。

「本当に、本当にごめんなさい」

「これまだ騙しておいてよく今更謝れるな。悪いと思ってないだろ」

「長年裏切ってきた私に、愛想尽きたでしょう…私、耀とここを出ます」

もし遥人さんがおじさまと私の関係に気づいて、私に愛想をつかした時には、ここから出て行くしかない、そう思っていた。一人で生きていく力などあるはずもないことは重々承知だが、それ以外に道はないと思っていた。

それに、おじさまがいなくなってしまっては、私が生きるための指針も、気力も失ったも同然だった。

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