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孤高の帝王は純粋無垢な少女を愛し、どこまでも優しく穢す

第40章 めまい

私はただ、おじさまとの思い出をふと思い出して、向かいに座って一緒にデザートの時間を過ごす相手に、話してみたくなっただけのことだった。

夫に対しての批判的な物言いは、あまりいい心地がしなかった。

私は浅木さんに対し、少し意地悪な感情が芽生えた。

「浅木さんは独身と聞いてるけど、お気に入りのアイスクリームは何種類あるのかしら」

「選べないから、手は出しません」

「目の前にずらりと並んでいるはずよ」

「しいて一つ食べるなら、今この目の前にたった一つある一種類を」

そう言って浅木さんは私を見つめた。

不意に動悸が高鳴り、私は浅くなった呼吸を整えようと胸をおさえた。




「…秘書の星名さんって、どんな女性?」

話題を変えたかったこともあり、思い切って本当はずっと聞きたかったことを尋ねてみた。

星名さんとは、遥人さんと関係を持っているらしい若い女性秘書で、数か月前から浅木さんに代わって彼女が社長の業務に随行するようになっていた。

「どう答えたらよいか」

「その…可愛いのかしら…女性として…」

「見る方によります」

「確かに、そうね。主人からしたら、可愛いのよね」



浅木さんはアイスクリームと食べ終えると、ソファから立ち上がり深くお辞儀をした。

「奥様、ありがとうございました。久しぶりのアイス、美味しかったです」

「そうね、私も楽しかった」

次はいつ会えるだろうか、そう思って玄関まで見送った。

靴を履こうと軽くかがんだ浅木さんの胸元から、紺色のハンカチがはらりと落ちた。

拾って手渡した時、不意に顔と顔が近づいた。

「食べたことのない味も、ぜひ試してみてください」

甘酸っぱいイチゴと、バニラの甘い香りが混じった吐息が、頬にかかった。


浅木さんは最後に一礼し、顔をあげると満面の笑みをよこした。

その笑顔はいつまでも、私のまぶたの裏に焼き付いて離れなかった。

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