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孤高の帝王は純粋無垢な少女を愛し、どこまでも優しく穢す

第40章 めまい

「浅木さんは、甘いものお好き?」

「はい。よく意外に思われるのですが、アイスクリームやケーキには目がありません」

浅木さんは照れ臭そうに答えた。

「資料もアイスクリームも結構重たいので、お部屋まで運びましょうか」

「じゃあお願い。そして、なかで一緒に召し上がっていって?」

浅木さんはハッと私の顔を見た。

その頬が微かに赤く染まったかと思うと、咳払いして背筋を伸ばす。

「ありがとうございます。お言葉に甘えて」



リビングのテーブルでアイスクリームの蓋を開いた。

「縦に3列、横に4列。さあ、全部で何個でしょう」

私がなんとなく口にすると、浅木さんは顎に手を当てて思案するポーズを取った。

「えっと…さんしじゅうに、12個でしょうか…」



私はメロンのシャーベットを、浅木さんはイチゴバニラのアイスを選んで、ソファで向かい合って食べた。

遥人さんからは、浅木さんは同年と聞いていた。

つまり私とも同い年ということだ。そう思うと、なんとなく慣れた心持になり、ふと思い出したことが口をついて出た。

「私の尊敬する人はね、目の前にいくつものアイスクリームが並んでいたら、そこから1種類選ぶなんて無理だって言うの」

「確かに、難しい選択ですね」

浅木さんはうなずく。

「その後にこう言うの。『黎佳、一つに絞ることなんてないんだ。ほら、全部一口ずつ食べてごらん。いろいろな味があることを知っている方が、世界は広くなる』って」

「視野を広く持て、ということでしょうか」

「そうね。すべてのものを愛せ、とも聞こえたわ」

「アイスだけに、ですか」

浅木さん真剣な面持ちで言った。変わった人だと思った。

「おやじギャグがお上手なのも、意外に思われない?」

私が笑っても、浅木さんは真剣な表情を崩さずに真っ直ぐ私を見つめていた。

そして、驚くような一言を口にした。


「…奥様は、社長に対して寛容だ」

私は息をのんだ。

まさか、この思い出話が、アイスクリームを異性にたとえた、夫の不倫に対する嫌味と受け取られたのだとしたら心外なことだった。

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