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孤高の帝王は純粋無垢な少女を愛し、どこまでも優しく穢す

第41章 しじま

「この時間だと、運転手さんの車は出せないわよね」

「タクシーで来ました」

「タクシー、待たせてるのね」

「いえ…でも、大通りに出ればまたすぐ拾えます」

周到な浅木さんが、タクシーを帰してしまったのが不思議だと思ったが、次の瞬間、胸がドキドキし始めた。

彼は周到に、私との時間を用意したのではないのか。

「浅木さん…あの」

「はい」

浅木さんは焦れたように私の言葉の続きを待っている。

「あの、アイス…」

「ああ、アイス」

浅木さんはまた笑った。

「食べたことない味、試し…」

不意に浅木さんの手が頬に触れ、整った顔が近づく。

優しい目が私の双眸を支配し、かすかな甘い酒の香りの唇が、頬に触れた。

一瞬離れ、再び私の目を覗き込み、また唇が触れた。今度は私の、唇に。

一瞬触れて、すぐに離れたそのぬくもりを、私は引き留めるように彼の首の後ろに手を添えた。

見つめ合い、唇を合わせる。ウイスキーの香りと、歯磨きのミントの香りが交じり合った。

昂る呼吸を抑えながら、私たちは舌を絡め合わせた。

その動きは徐々に淫靡にねっとりとしたものになり、その先の果てしない快楽を思い起こさせるものになっていった。

ときおり交わす視線は、どこかいたずらそうで、そこに滲む少年のような無邪気さのせいで、私は戯れるように彼の唇を味わった。



ウイスキーにチョコレートミントのアイスを浮かばせたのを出すバーがあった。

おじさまが教えてくれたその不思議なお酒には、子供のような無邪気さと大人の深みと奥行きが不思議に溶け合っていて、まるでおじさまのようなお酒だと思ったのを思い出した。

おじさまは今も、私の中にいる。

柔らかな唇を触れ合わせる浅木さんの向こうにも、おじさまが見える気がした。

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