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孤高の帝王は純粋無垢な少女を愛し、どこまでも優しく穢す

第42章 花芽・1

浅木さんに頼み、再び車に乗り込んだ。

私を助手席に乗せ、自分も運転席に戻ると、浅木さんは心配そうに私の顔を覗き込んだ。

「あんな顔の遥人さんは、初めてよ」

唇が震えるのを、噛んで押さえた。

「私にできなくて彼女にできることがある。瞬間にそれを感じたわ」

悔しいけれど、彼女が遥人さんに与える喜びは、私が彼に与えられる喜びとは明らかに違っていた。

前に向かっていて、明るくて、力がみなぎるような喜びだった。それは、できないことすら可能にするエネルギーに満ちていた。

「太陽みたいな子ね」



泣かないでください、という浅木さんの言葉で、頬に涙が伝い落ちていることに気づいた。

「奥さまは、社長と、星名さんのこと…」

「ええ、いいの。こうなったのも、もとは私のせいだから」

「…もしかして、僕とのキスが原因ですか」

「大丈夫。あのことは彼は知らないわ」

「なら、なぜ奥様のせいなんですか」


私はおじさまと自分のことを話した。

「今も心のどこかで、おじさまに、会いたいと思ってるの。好きな気持ちが、今も止められないの」

「…今の僕には、良くわかります。僕自身も、あなたへの思いを、たちきることができないでいるから」

「浅木さん…」

「奥様、ごめんなさい」

「謝らないで。浅木さんは優しくて、私ずいぶん支えてもらったのよ。感謝してるの」

「奥様、抱きしめてもいいですか」

浅木さんは言って、私の肩に両腕を回した。

うつむいたまままぶたを閉じると、涙の粒がサックスのワンピースの膝に水玉模様を描いた。

両手を、浅木さんの背中に回す。

温かい身体が近づいて、私を抱き寄せ、隙間なく体を密着させた。肩の上に顎を置き、しばらく涙を流れるままにした。

髪を撫でる手が優しい。いつの間にか私は声を漏らして泣いていた。


「僕はあなたの全部をほしい。おじさまを忘れられない気持ちも、なにもかも、僕に受け止めさせてくれませんか」

「おじさまのこと、忘れろって言わないのね」

「いいです。忘れなくて」

浅木さんは声を絞り出すように言って、抱きしめる腕に力を込めた。


「今日…あなたが望むなら、僕がおじさまになります」

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