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孤高の帝王は純粋無垢な少女を愛し、どこまでも優しく穢す

第45章 新居

=Reika=

長く療養していた詩織おばあさまが亡くなり、おじさまが所有していた不動産を相続した遥人さんは、おじさまの本宅を取り壊し、そこに私たち家族の新しい住まいを新築した。

建材も工法も設備も最新鋭のもので、あらゆる技術と贅を尽くしたその邸宅に、私は息をのんだ。

「こんなに素敵なお家に住んでいいの?」

私は大きな冷蔵庫が備え付けられた広く日当たりの良いキッチンから室内を眺めた。

キッチンカウンターの向こうには窓に囲まれたブレックファストルームがあり、アーチ型にくりぬかれた仕切り壁を隔てて、備え付けの本棚が充実したリビングが一続きになっている。

「何言ってるんだ、こういう家に、住む責任があるんだ。僕の会社は建築屋だよ」

遥人さんはキッチンのカウンターに手を滑らせながら言った。

「建築屋」と言って胸を張った遥人さんのスーツの襟で、社章がきらりと光った。そんな彼は社長の名にふさわしい堂々とした威光を放っていた。

「そうよね」

私には、その家は家族の安らぎの場というよりはむしろ世間に威厳を見せつける要塞のように感じた。

───この家を、私の手で、温かい家族のよりどころに育てていくことができるのだろうか。

体力も気力も薄れていた私には、その豪邸の意匠を凝らした格子窓は牢獄のそれ同然に感じた。

リビングの天井高の窓の向こうには、日差しが降り注ぐ庭が広がっており、桜、ハナミズキ、紅葉、ミモザ、レモン…四季を感じさせる木々が美しく植えられていた。

もしも小さな子がいたなら、ここで何不自由なく遊ばせることもできる。耀や彩たちが所帯を持ち、孫が生まれたらここで遊ばせることになるのだろうか。

思い描こうとしても、その絵がどうしても浮かばなかった。

これから先、私はどこで、誰と過ごすのだろう。

想像する未来の絵の遥人さんの隣に、私はいなかった。

───だとすればその場所には。

そう考えて浮かんだ顔はあの、太陽のような笑顔を輝かせる星名さんの姿だった。


「黎佳、この家のインテリアは君に任せるよ。好きなようにしていい」

遥人さんはそう言って私の肩を抱き寄せた。

のっぺりと日に照らされた広々とした空間に、私は途方もない虚空を見る思いだった。

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