テキストサイズ

孤高の帝王は純粋無垢な少女を愛し、どこまでも優しく穢す

第46章 別れ

=Reika=

星名さんと私は奇妙な関係を続けた。新居に置く家具や調度品を共に選んだり、彩と遥人さんと星名さんがキャンプに行くのを見送ったりもした。

そのころは時折、激しい腹痛や、不正出血などに苛まれた。けれども私は病院には行かなかった。

私の母もこんな症状から病気がわかったと、スミレちゃんが以前言っていたのを思い出した。体調を崩してから2か月でこの世を去った母と、私は同じ運命をたどるのだろうかと思った。

幸い耀は学業に、彩は部活動に忙しく、遥人さんも会合や付き合いでほとんど深夜まで帰らないので、痛みに耐えられない時には痛み止めを大量に飲んだり、体がどうしても動かない時は日中はベッドで過ごしたりしてやり過ごした。


美晴が旅行に誘ってくれたのはそんな時期だった。

デパートの中にあるカフェで久しぶりに待ち合わせし、美晴は私を見るなり立ち上がって目を見開いた。

「どうしたのよ、ずいぶん痩せたわね。なにがあったの」
「いろいろとね。でも元気よ」

私は力いっぱい微笑んだ。

「…黎佳?」

美晴は怒りを込めた眼差しで私の弱り切った体を貫いた。

本当のことを話せと、彼女の目が言っている。

「死ぬとでも思ってる?やめて、そんなわけはないわ。あなたを嫁に送り出すまで私は死なないわよ」

「はは。じゃあ黎佳は永遠に死ねないわ」

体調について触れてほしくない、今まで通りに接してほしいと言う私の願いを感じ取ってくれた美晴は、いつも通りに私を揶揄したりいっしょにふざけた会話につきあってくれた。


美晴と向かい合って座った私は紅茶を飲んだきりで、一緒に注文したシュークリームは半分も食べられなかった。

「美晴、食べて。これ私の口に合わないわ」
「まあ、出たわ、お姫様のわがままが」

美晴は呆れて見せた。



本当は、私に残された時間はあと少しだと体が私に言っている。ならばその残された時間、私は自分がしたいように過ごしたいと思っていた。

正直、あまり悔いは残っていないのだ。


もともと身寄りのない貧しかった私が、ここまで愛され、ここまで豊かな暮らしをさせてもらえた。もうこれ以上望むことなどないのだ。


ただひとつ、見ておきたいものがあった。

「京都の、法金剛院に行きたいの」

美晴は一瞬驚いた表情をした後、何かに思いを巡らすような表情でうなずいた。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ