テキストサイズ

孤高の帝王は純粋無垢な少女を愛し、どこまでも優しく穢す

第46章 別れ

「どうしたの」

「ううん。いいわよ。法金剛院、行こう」

美晴は大学院で古典文学を研究していたので、歴史にも詳しい。

法金剛院についても、美晴はその成り立ちなどの歴史的背景に詳しいはずだ。

法金剛院が一体どんな意味のある寺なのかはよく知らない。ただ、あの場所で感じた胸が震えるような懐かしいような、落ち着くような寂しいようないろいろな感情が押し寄せたあの時の興奮をもう一度味わいたいと思ったのだ。

そこに行って、おじさまと手をつないだあの場所で、おじさまを感じたかった。




新幹線で京都に着いたときには、立ち上がることができなかった。美晴が駅で車いすを借りてくれて、よろよろとタクシーにのり、私は美晴に押されて法金剛院の門をくぐった。

「黎佳…ここを見たら、病院に行こうよ」

「せかさないで。今はゆっくりこの庭を回りたいの」

私はゆっくり立ち上がった。

真っ赤に染まったもみじの葉が地面を覆いつくして、真っ赤な絨毯のようだ。

見上げると対照的な青空がある。木々が呼吸して生み出す柔らかな空気が私を包んで、体の奥に力が戻ってくる。

「やっぱりこの場所は、なにかあるわね」

大きく息を吸った私の手を、美晴が支えてくれている。

「懐かしい匂い。昔、おじさまと、来たの」

呟いた声がかすれている。

「おじさまに会いたい」

美晴は私を支えるように抱き留めた。

「黎佳…しっかり」

赤く燃える庭で、私は今こうして佇んでいる。

こんな風に燃える何かが、自分の中にも今もあることに気づく。


その時、それまで風ひとつなく穏やかだったのに、突然の風が、秋の日差しに温められた空気をさらった。

地面に敷き詰められたもみじの葉が、木の幹のあたりの高さまで巻き上げられると、燃える火の海から火の粉が舞うように見える。

かつてこんな風が起きた日があった。そうだ、あれはおじさまと出会った日、小学校の入学式で、地面に降り積もった桜の花びらを舞い上げた突風。

過去に思いをはせ、再び開いた目の前を、ひとひらの葉が遮った。その葉が目の前を通り過ぎて再び視界が開けた瞬間、私は目を見張った。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ