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孤高の帝王は純粋無垢な少女を愛し、どこまでも優しく穢す

第5章 唇

=Masaki=

気が付けば黎佳のことを考えている。

小さい身体に不釣り合いな、完成された美しい顔立ち、鼻にかかる声。

不安げな表情の後に見せる、ぱっと周囲の光を集めるような笑顔。

寂しさを押し殺して一人健気に過ごす姿を見ると、なんとしてでも彼女を私の手で幸せにしてやりたいと強く思う。


ある日急に会合がキャンセルになり、ふと思い立って閉店間際のアイスクリームショップに駆け込んだ。

ショーケースを眺め、何一つ選べなかった私は、閉店作業を進めたくてそわそわしている様子の店員を待たせるのをためらったのもあり

「全種類」

と注文したのだった。


三人で食べるにはあまりに多すぎる量だが、素直な黎佳のことだから、どれもこれも喜んで食べるような気がした。


大きな袋を下げて上機嫌でマンションを尋ねると、スミレはおらず、黎佳が満面の笑みで私を出迎えてくれた。

目移りするほどのアイスクリームを前に興奮する黎佳にひと口ずつスプーンですくって食べさせてやると、目を閉じて味わい、長い睫毛を瞬いてパッと目を見開いて笑う。

「どれも美味しい」




黎佳は私が何かを勧めると積極的に挑戦した。

初めて食べるものを目の前にした時もそうだし、バレエを習ってみないか、と持ち掛けた時もそうだった。

「おじさんが勧めることでも、嫌だと思ったら、そう言っていいよ」

私が言うと黎佳は首を振り

「おじさんが言うことは、ちゃんと聞きたいの。おじさまは私のパパだし、ママだから」

と言った。

両親の代わりとみられていると知った私は正直、複雑な思いもあったが、それはそれで嬉しかったし、全幅の信頼を寄せられていると思うと、ときおり黎佳の前で奇妙に揺らぐ理性を、襟を正すように建て直すことができた。


けれどもこの日はその正した襟を、純粋無垢な手が無邪気に乱してきた。

黎佳が、甘く唇に吸い付いてきたのだ。

私は親として、黎佳の無意識の誘惑に、必死に抗わなければならなかった。

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