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孤高の帝王は純粋無垢な少女を愛し、どこまでも優しく穢す

第11章 喪失

美奈子さんが準備してくれた黒いワンピースとボレロのセットを着て、告別式の会場に向かった。

大きな会場に長蛇の列があり、私は一人、じっとお焼香の順番を待った。

先にお焼香を終えた香さんが私を見つけて驚いて立ち止まった。

「お嬢様、どうしてここに」

近づいて耳打ちするように言った。

「どうしたらいいかわからなくて、なにかしなくちゃって、思って」

香さんが目を赤くして涙をにじませるから、私もつい涙ぐんでしまった。

香さんはもう一度私に同行して一緒に参列に並んでくれた。

大きな遺影の前で手を合わせ、挨拶を終える。

沈み込んだおじさまの姿がそこにあった。

おじさまは一瞬目を見張って私を見つめてから、かすかにうなずいた。

口角をあげて笑顔を作ろうとしているのに、どう見ても泣き顔だった。



帰り際、香さんが教えてくれた。

「ご主人様の隣に座られていたのが、孫の遥人さんよ。ご両親を急に失って、本当に言葉がないわ」

そう言って香さんはハンカチで目を抑え、唇を歪ませた。


おじさまの隣にいたのは、私より少し年下に見える少年だった。

痩せていて、黒い真っ直ぐな髪をしていた。顔色が悪いのは、急に彼を襲った信じられない事実を受け入れられぬままでいるからかもしれなかった。

ふいに、ぽとりとシーツの上に落ちた母の手や、病院の廊下に取り残された時の感覚が蘇って、私は自分を抱くように両腕を掴んだ。

どうしようもない腹立たしさと、恐ろしいほどの寂しさが、刃物のようにとがって私の胸を削るようだった。

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