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孤高の帝王は純粋無垢な少女を愛し、どこまでも優しく穢す

第12章 慰め

=黎佳=

「急に、雨が降ってきたよ」

それから二か月経った土曜日の夜。

マンションの玄関に立ったおじさまの髪からは、雫が落ちていた。


私は慌ててタオルを取って渡した。

「おじさま歩いてお家からいらしたの」

「ああ。そんな気分で」

タオルで髪を拭くおじさまのもとにスミレちゃんが駆け寄った。

「気をしっかりね」

スミレさんは言っておじさまの手を掴んだ。

「私今から、どうしても外せない用事があるから。ごめんなさい。本当はこんな時、あなたの近くに居たいのに」

スミレちゃんは涙を流した。

「ここでゆっくり休んで。明日の午前中には戻るから」

スミレちゃんはそう言うと、おじさまにチュッとキスをして出かけて行った。


スミレちゃんの背中を見送ると、おじさまは私に向き直り力なく笑いかけた。

「黎佳、少し会わないうちに大きくなった?」

「うん。最近食べる量も増えたわ。今日もカレーおかわりしちゃった」

食べ終わったカレーの皿を流しに運びリビングに戻るとおじさまは両手で顔を覆っていた。

長い指がこの日ばかりは心細げに震えていた。

「僕は樹を助けてやれなかった」

たった一人の大切な息子を失ったおじさまに、どんな声を掛けたらいいものか、まだ11歳の私には見当もつかなかった。

でも、親類を失ったときの、胸をかきむしっても拭い去れない悲しみが体の芯まで染み入る感覚は分かる。それはいまだに私をふいに襲うことがあったから。


「おじさま…カレー食べる?」

おじさまは首を振った。

「じゃあ、私これからお風呂の時間だから、一緒に入りましょう?髪も服も濡れているし。私が背中を洗ってあげる」

そう言うとおじさまは少し戸惑った顔をした後うなずいた。

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