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秒針と時針のように

第2章 顔を見た瞬間からの嫌な予感


「お母さん、別にオレ大丈夫だよ」

 隣には黙ったまま目の前の少年を睨む母親。
 さっきまで怒鳴っていたせいで荒い息で肩を上下させている。
 なんとか落ち着こうとしている。
 胸元を握りしめて。
 苦しそうに。
「この子に近づかないで」
「えっ」
 なにを言ってんの。
 オレは急いで母親の手にしがみつく。
「大丈夫だからっ。全然けがもしてないし……」
「そんなに腫れてるじゃないっ」
 空気を打つような声。
 それ以上なにも言えない。
 多分言ったら泣いてしまう。
 母親が。
 オレは手を下ろして、向かいの少年を見た。
 さっきから何も言わずにこちらを見ていた少年を。
 沈んだ目で。
 どうでもよさそうに。
 黒いタンクトップとジャージの短パン。
 授業の時も体育着姿なんて見たことがない。
 肩までの髪は女子みたいだってバカにされても変わらない。
 一つに結んで。
 文句があるならどうぞって感じに。
「とにかく……今回のことはあなたのお母さんに連絡するわ」
 ぴくりとその眉が動く。
 それから静かに笑った。
 凄く歪んだ顔で。
「お墓に案内しますか?」
 母親が固まる。
 少年はその反応を楽しむでもなく、無表情に戻ってから踵を返して歩き出した。
 ぺたぺた。
 裸足で。
 堂々と。
 夏の体育館から出ていった。
「拓」
「なに、お母さん」
 肩に手が置かれる。
 力強く。
 少し震えてる。
「あの子ともう遊んじゃダメよ」
 頷きそうになってとどまった。
 母親の手を退ける。
 しっかり顔を見て、笑って言った。
「うん。そうする」
 嘘だって吐くときにはちゃんとしないとね。

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