秒針と時針のように
第2章 顔を見た瞬間からの嫌な予感
翌日、教室に入るとあの少年だけだった。
机に座って校庭を眺めている。
時刻は七時。
第一小学校の二年三組。
二十八人クラス。
先生は一番人気。
他のクラスにいつも羨ましがられてる。
けどオレは嫌いだった。
あの何でも知ってるよって笑顔がむかつく。
子どもを子どもとしか思ってない。
「おはよ」
ガタン。
挨拶なんてなかったみたいに机から飛び降りて教室から出ていく。
無視かよ。
ランドセルを乱暴に席に置いてから、後を追った。
「おはよっ」
彼は飼育小屋のそばにいた。
いきものがかりでもないのに、よくそこにいるんだ。
「昨日お母さんに言われなかった?」
「なにを?」
ウサギが走り回る音がする。
「俺と遊んじゃダメよって」
から笑い。
オレのお母さんに似せた声で。
「べつに」
最近覚えた言葉。
超便利な言葉。
べつに。
あと、あっそう。
いいよな。
「幼稚園からいっしょだし」
「そうだっけ?」
「そうだよ、岸本忍くんだろ」
ふふんと。
ちゃんと覚えてるんだ。
だが、忍は不機嫌そうに眼を細めた。
「気持ちわる……」
「ええっ、なんで」
「俺はてめぇ知らなかったのに」
てめぇって……
先生に怒られるよ。
でも悪い気しない。
「昨日遊んだから名前はわかるよね」
「……古城拓だっけ」
「せいかーい!」
「うぜぇ」
「うぜぇってなに」
忍が笑う。
幼稚園では一回も見たことなかった笑顔。
「バカだな、拓って」
初めて呼び捨てされた。
嬉しかった。
「忍だって」
「は?」
ちょっと怖い。
でもなんとか口に出した。
「昨日のあれ、わざとじゃないって言えば良かったのに」
まだ赤い左腕を見せつける。
「べつに……どうでもいいし」
うん。
便利な言葉だけど使われるとやだ。