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秒針と時針のように

第2章 顔を見た瞬間からの嫌な予感


 予感はしていたんだ。
 その顔を見た瞬間から。
 いつものように体育館の二階で壁にもたれて本を読んでいた。
 シューズなんて親は買ってくれなかったから、下から聞こえる同級生の声を意識しないようにして。
「なにしてんの」
 第一声はこれ。
 幼稚園の頃から名前と存在だけは知っていた拓とかいう奴。
 それだけ。
 それだけだったのに。
「バスケしない?」
 その笑顔を見た瞬間。
 ああ。
 多分こいつはずっと付きまとうことになるだろうな。
 そんな気がした。
 そしてさらに不快だったのは、それをどこかで喜んでいる自分。
 親の噂を親から聞き今まで避けてきた同級生たちとは違う拓に。
「一対一でならいいけど」
「よっしゃ。決まり」
 なにがそんな嬉しいんだ。
 階段を下りる。
 ぺたぺたと。
 ボールを持ってきた拓がにこりと笑った。
 隣のコートではクラスメイトがドッヂボールをしている。
「あっちに混ざんないの……?」
「ドッヂきらいだし」
 拗ねた顔。
 一時間。
 一時間だけ遊んだら離れよう。
 そしたら嫌な思いをしなくてすむ。
 でも……
 もう少し。
 あとすこし。
 そうしてどんどん流されてく。

「どこまで行くのっ」
「……もう少し」
「えぇ~疲れた」
「戻れば?」
「やだ」
 ガサガサと。
 雑草を掻き分けて。
 擦り傷を無数につけて。
 学校は見えない。
 距離が離れたので立ち止まる。
 いつのまにか木々の向こうの奴がいない。
「拓?」
 音も聞こえなくなった。
「拓っ?」
 あれ。
 怖い。
 なんでいないの。
「どこ? 拓っ」
 ぐいっと首が後ろに反る。
 目隠しをされて。
 小さい手で。
「だーれだ」
「……」

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