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秒針と時針のように

第2章 顔を見た瞬間からの嫌な予感

 ぷつんと思考が切れる。
 周りでは仲間を探して生徒が歩き回っている。
「ほら。四人組になったら座りなさい」
 担任の声。
 突っ伏していた体を持ち上げて、俺は教室を見まわした。
 あれから四年。
 なんで夢に出てきたんだろう。
 窓を眺める。
 あの山が見えた。
「しーのぶ!」
 首に抱きついてきた影を勢いのままに押しのける。
 ガタタと後ろの机にぶつかったらしい。
「あっぶねーなっ。なんだよ、いきなり」
「いきなりはてめぇだ」
 黄色のTシャツに茶色の短パンの拓が頭を掻く。
「どこ行く?」
「は?」
「だから。修学旅行の班決めだろ」
「班決めだろ? まだ四人にもなってねーじゃん」
「オレ、忍と二人がいい」
「せんせー! ここ男子二人あまってますー」
「ああっなんで!」
 修学旅行。
 小学校最後にして最大の行事。
 担任も生徒も浮気立ち、毎日の休み時間の話題を占領する。
 俺の隣のこいつを除いて。
 授業が終わってすぐに机の前に来てこう言った。
「なあなあ。放課後またあの山行こうぜ」
「今日は飼育委員の日だろ」
「それ終わったら」
 クラスの中で飼育委員は六人。
 三日に一度のローテーションで餌やりの仕事がある。
 今日は金曜日。
 俺と拓の担当日。
「わかった」
「やったー」
 走るように自分の席に戻っていく。
 教室の中では端と端といっていいほど離れてるのに。
 よく毎時間来るよ。
 俺からは行かない。
 だって、立ち上がる前にもういるから。
 満面の笑みで。

 拓は友達が多い。
 たっくんと呼ばれて、女子からも人気が高い。
 体育の時はチームで取り合いだ。
 五年の時は推薦で委員長にも抜擢された。
 いじめを見つけたら体当たりで止めにいくし、掃除は誰より早く終わらせる生真面目タイプ。
 その上体力があるし喧嘩も強い。
 腕相撲は学年一強い。
 
 一度、俺が中学生にからまれた時はランドセルを振り回して追い払った。
 後日拓が公園に呼び出されたのはまた別の話だが。
 あの時も拓の母親から酷く怒鳴られた。
 必死で「忍は悪くないっ」って叫んでた拓が忘れられない。
 てめぇも悪くないだろ。
 そう思いながら話を聞いてたっけ。
 

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