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秒針と時針のように

第3章 最初の事件

「はあ? んなこと言ったら忍の方が変わんねえよ。毒舌なとことか相変わらず髪長いとことか色白なとことか絶対零度の目つきとか」
「髪は拓が長いほうが良いって言ったからな」
 指先でくるんと髪をいじる。
「オレ、そんなこと言ったか?」
「まあ、俺がいってんのはそういうことじゃなくて」
 忍が身を乗り出して、拓の頬に指を這わせる。
「なっ」
「こういうとことか」
 硬直する拓にケチャップのついた指を見せる。
「って、なに真っ赤になってんだてめぇ。ソースつけて阿呆ヅラしてんの見るに耐えねえんだよ」
「言い方あるだろっ」
 備え付けの紙で指を拭う忍を不満げに睨む。
「なんだよ」
「舐めてくれねーのかなって」
「んなっ! 馬鹿がっ。後のポテト全部処理してから来い。俺は先に行く」
「おいっ。待てよ、忍! まだまだあるだろこれ」
 既に自動ドアの向こうに消えた背中に叫ぶ。
 山盛りのポテトに目を落とす。
 クシャクシャに丸めた包み紙。
 まだ半分残っているお冷。
「あ……ありえねえ」
 急いで荷物をまとめて走り出す。
 一旦店外に出てすぐに戻ってきた拓は、素早くテーブルの上のカメラをつかみとり、また外に駆け出した。

 ホテルの方向に向かっても忍がいない。
「まさかまた道に迷ってんじゃ……」
 大きくため息を吐く。
 がしがしと頭を掻いて唸る。
 こんな知らない土地で探せるわけないだろお。
 携帯もまだ持っていない。
 旅行が終わってから買う予定だ。
「こんなことしてる間に忍が攫われる。こんなことしてる場合じゃねえのに。ていうかマジでどこ行ったあんなろー」
「遅い」
 ブツブツと呟きながら歩いていた拓の耳に聞きなれた声が届く。
 振り返ると、アイスを二つ持った忍が立っていた。
 そのうちの一つを手渡す。
「ん」
「ありがと。ってなんでのんびりアイスなんて買ってんだよ!」
「拓が奈良に来て抹茶アイス食べなきゃ修学旅行じゃないって言ってたから」
 なにかおかしいかとばかりに首を傾げる。
「いらないなら貰うけど」
「あげねえよっ」
「礼の一つもないから」
「ごめんって! ていうか忍こそオレ置いていっただろ! それに対して」
「あー。ごめんごめん」
 手をぷらぷらと振りながらアイスを舐め歩き出す。
 その肩を拓が力強く引き止めた。
「だからホテルはあっちだって」

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