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秒針と時針のように

第3章 最初の事件

 足先からそっと湯に浸かる。
 軽く泳いでいた忍がそばに寄ってきた。
 こういう動作一つが可愛い。
 二人で壁にもたれて足を伸ばす。
 オレのほうが少し長い。
 忍のほうが少し細い。
 天井から雫が垂れる音が響く。
「明日には帰るんだな」
「はやいよなー。そしたらもう今年は行事ないのか」
「拓は風紀委員に立候補しねえの?」
「誰がやるかよ……あんな抗争取締って名前だけの喧嘩好きの集まりなんか。先輩とか全治二ヶ月の骨折とかしてんだぜ」
「あ、そういうもんなの?」
「忍って本当にぼーっとしてるよな。どれだけヤバイ組織かって……」
「ぼーっとなんてしてねーっつの」
 バチャン。
 勢いよく水を掛けられた。
 不意打ちだったからまともに頭まで濡れる。
「お、前」
 すぐさま反撃に出る。
 ジャバン。
 水しぶきが上がり、壁に模様ができる。
 両手で容赦なく攻撃し合う。
「ばっか。やめ……このやろっ」
「うわ、反則! ちょ、待って」
 後半はもうルール無視に取っ組み合いだ。
 しばらく掛け合って、湯に当たったのかぐったりと忍は縁にもたれかかった。
「あぢー……ばかじゃねえの」
「どっちから始めたか覚えてるか」
「拓」
「忍だろ」
「疲れた」
「息切れやべえ……」
 数秒の沈黙。
 呼吸を整えるだけの。
「なあ、拓」
「なに?」
「俺やっぱ拓と同じ中学でよかった」
 聞き間違いだと思った。
 もしくは幻聴。
 だって、忍がそんな素直なこというわけがないから。
「へっ」
「俺、拓が好きなんだろな」
 あっさりと言って髪を掻きあげる。
 独り言のように。
 それからニッと笑って立ち上がり、忍は出て行った。
 残された俺は水面に映る真っ赤な顔を押さえた。
「……まずい、だろうが」
 危うく反応しかけた下半身を一瞥して、冷水を浴びる。
 嬉しすぎて顔が戻らない。
 大体小学校の頃から友達だって言われたこともなかったんだ。
 初めて認められた気がした。
 でも、それだけじゃない。
 そんな気がする。
 オレはシャワーを止めて、脈打つ胸に手を当てた。

 なんだ、この異様な気持ちは。

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