秒針と時針のように
第4章 認めたくないこと
鞄を地面に落として拓の頭を引き寄せる。
ああ。
あの修学旅行の。
あの距離だ。
目の前に拓の目が。
「し……のぶ」
じっと見つめる。
下手くそに剃られた眉を。
揺らぐ瞳を。
すっとした鼻筋を。
緩く空いた唇を。
それから手を離す。
けど拓は離れなかった。
「無防備過ぎるよ。忍」
ささやき声が頬にぶつかる。
逆に頭を掴まれる。
さっきより一センチくらい近い。
あと少しで唇が触れ合う。
「ふっ……沸いてんな、バアカ」
バッと腕を払って一歩下がる。
屈んで鞄を拾う手を一瞬で引き寄せられる。
同じことを二度する俺らじゃない。
俺は腕をしならせて手の間に指を差込んで引き剥がそうとする。
拓は隙を作らずに俺の顎を捕まえる。
真剣勝負?
賭け?
遊び?
なんだ、これの名前は。
腕は諦めて拓の唇を手で押さえる。
俺の手の甲がすぐに口に触れた。
熱い息が手に伝わる。
「帰るぞ」
喋れない拓が目だけで何かを言ったが、聞こえないフリをした。
だって。
俺はてめえと同じじゃないんだから。
そこまで強くもやわくもないから。
まだ親友でいたかったから。
卑怯者はお互い様だ。
違うか?
拓。