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秒針と時針のように

第6章 秒針が止まるとき

「だってあのあたりの地価このへんの五倍とか抜かすんだもん」
「だもんじゃねえよ……マジで」
 オレは忍の持っている粗品を掴んだ。
「つまりストーカーは忍の方だってことだっ。そんな者にやるバナナはない!」
「ざっけんな! 勝手なことばかり言いやがって、コロス!」
「キャー。おとなりさんこわぁい」
 それに対していつもなら突っ込んでくれたのに、忍は無言でドアを閉めた。
 そう。
 今までは二人を隔てるものなんて殆ど無かったが、物理的な壁が出来た今、忍はそれを利用し始めた。

「じゃあな。ちゃんと寝直せよ」
 アパートの前で忍が荷物を分ける。
「忍」
「あ?」
「オレは……」
 忍の目を見た瞬間続けられなくなる。
 真っ直ぐで強い瞳。
 小学校、いや、幼稚園の頃から変わらない強い瞳。
 ナニモイウナ。
 そう言っているように見えたんだ。
 忍。
 いつまでだ。
 オレらはいつまで忘れたふりを続けあうんだ。
 あのキスもあの事件も。
 お前だって全部覚えているんだろう。
 いつまで……こんなこと続けるんだ。
 オレはいつだって昨日みたいに狂うだろうさ。
 そしたらお前はどうするんだ。
 抵抗しないで、オレがまた今まで通りになるのを待つのか。
 問いは無限と出てくる。
 忍。
 どうなんだ。
 答えてくれよ。
 なあ。
 またこれだ。
 ついさっき安心したのに。
 お前の努力を無に帰そうとする。
 オレはどこまでも親友失格だな。
 けどさ、言いたいんだよ。
 お互いにわかっていて目を背けてることを言わせてくれよ。
 それで壊れるような十五年だったか。
 そんなもんだったか。
 違う。
 違うだろ。

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