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もうLOVEっ! ハニー!

第7章 彼女の横顔

 廊下をどんどん進むつばるに引きずられるように駆け足になる。
「離してっ」
 全く聞き耳をもたなかったつばるは、医務室から十分離れた空部屋の多い西エリアの廊下で突然立ち止まる。
 何か言おうとした瞬間、壁にガンッと押し付けられ、唇が重なった。
「んんっ」
 右手を封じられ、空いた手で顔を固定される。
 逃げられない。
 唇も閉じる前に舌が入ってきた。
「あっ、んん、っは」
 唾液が舌に絡む音が鼓膜を通じて脳まで揺らす。
 クチュ。
 チュプ。
 唇の端から液が伝う。
 息が苦しくなって、顔が熱くなる。
 左手でつばるの肩を掴む。
 力の差は歴然。
 ぞくぞくとする快感と、あの夜の感覚が蘇ってきて腰から力が抜ける。
 ずるりとそのまま壁に身を預けた私をつばるが抱き留めた。
「っは、はあ……っあ」
 一体どういうつもりですか。
 そう問い詰めようと見つめたつばるの表情に、息が止まった。
 どうして……
 私を蔑んでいた時よりも怖い顔をしているんですか。
 一抹の悲しさも滲ませて。
「……あいつにも峰とかいうやつみたいにヤられたことがあんのか」
「え」
「どうなんだ」
 頬を沿って、首まで降りてきた手がそのまま締め付けるように指を回す。
 ドクドクと頸動脈が悲鳴を上げる。
「そんな……の、ないっ」
「じゃあなんでキスされてたんだ」
「されてませんっ。寸止めです!」
 大声で怒鳴ったせいで廊下に残響する。
 自分の言葉の恥ずかしさに体がカッと熱くなる。
 目を見開いたつばるが頭を押さえながら離れた。
「つ……ばる」
「くく……なんだそれ」
 力の抜けた笑みに心臓が鷲掴みされる。
 いつものつり目が丸みを帯びたようで、別人のようで。
 しばらく静かに笑っていたつばるが私の顔の横に手をついて、一言。
「馬鹿か」
「はっ?」
「普通そこまで馬鹿になれんのか」
「なんですかそれっ! もう二度とバカんなって呼ばないって決めたじゃないですかっ」
「ちげえよ。お前はそれあだ名だと思ってっけど、もう真性だよ」
「なにがですか」
「真性のバカ。事実だ」
 ぶちん。
 かちんなんてもんじゃありませんよ、これ。
「はぁああっ!? いきなり人にキスしといて罵声を浴びせるとかどんだけ意味わからないんですかっ。非常識にもほどがある!」
「誰にでもキスされるような無防備馬鹿が何言ってんだ」

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