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もうLOVEっ! ハニー!

第7章 彼女の横顔

 鳴海が炭に火を灯し、網を引く。
「男子―。さっさと焼けー」
 女子は皿と割り箸と飲み物を配り歩く。
 汗を拭いながら肉を引っくり返しつづけるこばるに冷たい麦茶を渡す。
「おっ。ありがとJCかんなちゃん」
「そろそろJC外してくださいよ」
「かんな、俺にも麦茶くれ」
「お前は自分でとってこいよ、つばる」
「なんで兄貴だけ」
「はいはい。ちゃんと持ってきてます」
 兄弟喧嘩が始まる前に手渡す。
 つばるは少し意外そうな顔をして、コップに口をつけて目を逸らした。
 追加の野菜を取りに行こうとしたとき、肩にぽんと手を置かれた。
「楽しんどる? かんな」
「ガク先輩。今来たんですか?」
 くい、とテントの横のバイクを親指で指し示す。
「おう。模試が終わって清と来たんや。ほら、差し入れも」
 そう言って岳斗はビールの詰まった袋を掲げるが、背後の清龍にしか目がいかない。
「ちょっとちょっとー。学外だからって飲酒は容認できないよ?」
 横から袋を奪った隆人を岳斗が睨む。
「ええやん。模試頑張った三年だけでも」
「じゃあ……流石に暗くなってからな」
「暗くなってもダメでしょーが。セクハラ男」
 パコンと隆人の頭を叩いた鳴海が袋を取り上げる。
 三人が口論している間に、私は清龍の元に近づく。
「これ……飲み物です」
「あ、ああ。ありがとう」
 ぎこちなくコップを受け取った清龍をちらっと見る。
 また目深に被った黒ハット。
 こんな湿気の高い時期によく被れますね。
「では、失礼します」
「あっ」
「……なんです?」
 呼び止めた清龍を振り返る。
「姉は、知ってるのか?」
 随分省略した質問ですね。
「知りませんよ。私も貴方もここにいるなんて。それじゃ、失礼します」
 残された清龍の両肩がぐいっと後ろに引っ張られる。
「おわっ?」
 その耳元に艶めいた唇が囁いた。
「ボクのかんなに随分と馴れ馴れしいにー。一体どういう関係かにゃ、清?」
 美弥が細い腕で、しかし力強く清龍をテントへと連れ込む。

 誰もいないテントの入り口のチャックを閉める。
 逃げ場を塞いで、割り箸をびしっと突き出す。
「吐け。かんなとどういう関係?」
 一変してドスの効いた声で圧する。
 同学年ながら、その威圧感には苦笑いするしかない。
 座り直しながら、清龍は溜息を吐いた。
「湯浅が気にすることじゃない」

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