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もうLOVEっ! ハニー!

第7章 彼女の横顔

「それはボクが決めること」
 じりじりとテントの奥に追い詰められながら清龍が帽子を押さえる。
 暗い蔭から覗く瞳は果てしないものを抱えている。
「ここに入学する前のかんなを知ってるだろ」
「昔の話だ」
「じゃあ話していーじゃん」
「無理だ」
 話せば焼き串で刺されるかもしれない。
 美弥の暴力性を知っているので警戒しながら答える。
「言うまでバーベキューはおあずけだよ?」
 美弥が手を伸ばしかけた瞬間、ジーッとチャックの開く音と共にテントに光が差し込んだ。
「おい。逢引中悪いんねんけど、肉なくなるで? なにしてん」
「ガク……」
「今行く」
 不審そうに二人を一瞥し、岳斗は去って行った。
 それを追うように立ち上がった清龍の服を美弥が掴む。
「話は終わってない」
「いい加減にしろよ」
「かんなのこと、どう思ってるの」
 大きく溜息を吐いた清が、自棄になって言った。
「好きだっつの。ライバル宣言してやるよ」
 パサリ、とテントの布を捲って外に出る。
 残された美弥はしばらくそこを見ていたが、肩から崩れて声を出さずに笑った。
 心底おかしそうに。
 ひとしきり笑って、ゆっくりと顔を持ち上げる。
 その表情は、美弥でも美緒でもなく、闘志に燃える一人の男の顔だった。
「上等ですにー」
 低い声は、美弥の心の奥に奥にと沈んでいった。

 焼肉じゅーじゅー。
 この焼けていく音ってどうしてこうも食欲を引き立てるのでしょうね。
「かんな、焼きそばやるわ」
「ガク先輩もちゃんと食べてますか?」
 紙皿を受け取りながら岳斗を見上げる。
 その手には紙コップが握られていたが、中身が泡立つ黄色い液体であることには敢えて触れないようにする。
「んー? 食っとるけど。そろそろアレ始まるから腹あけとかんとね」
「アレってなんですか?」
 岳斗が指で隆人の方を示す。
 彼が目の前にしている台に、大量のトレイが並べられていた。
 総菜売り場で目にするような、沢山のトレイが。
「なんですか、あれ」
「恒例のコロッケ早食い」
「はい!?」
 岳斗がぐいっとビールを飲み干して口を拭う。
「えげつないやろ。早食いでなんであんな詰まるもん出してくんねんて話やわ。経費の関係ってのはわかるけどな」
「全員参加……ですか?」
 不安になって尋ねると、ぽんと肩を撫でられた。
 大きい手。
「安心しい。男子だけや」

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