もうLOVEっ! ハニー!
第8章 優越鬼ごっこ
バタンッ。
乱暴に開いた扉から湯浅美弥が飛び出してきたのをつばるは見ていた。
風呂から上がり、兄貴の部屋で少し話して自室に戻るところだった。
一瞬美弥がこちらを見たが、その表情に固まってしまった。
目を真っ赤に腫らし、自己嫌悪にまみれて歪んだ顔。
「……っ」
すぐに隣の部屋に入って消えた。
……かんな?
確かに美弥が出てきた扉を見つめる。
時刻は二十一時。
こんな時間に何故かんなの部屋に。
そのことに苛ついたが、さっきの姿を思い出して頭を振る。
考えても、仕方ないか。
つばるはシャツと短パンと肩にタオルを掛けた自分を見下ろし、ため息を吐いて扉をノックした。
出で立ちなんて気にする方がばからしい。
「……はい」
「開けても良いか?」
ノブに手をかけたまま、つばるは尋ねた。
ガチャリ。
「……見てましたか」
自分から開いたかんなが能面みたいな虚ろな顔で現れた。
つい肩を掴んでしまった。
崩れてしまいそうだったから。
「なにがあった」
そのままかんなを部屋に入れ、扉を閉める。
ベッドに座らせると、少しだけ楽になったようで、はっきりとこちらを見た。
「美弥先輩、傷つけてしまいました」
「は?」
「奈己先輩の言う通りです……私は優越鬼ごっこを無意識のうちに楽しんでたんでしょう……それがこの様です。ざまぁないです」
ついていけない。
「おい、なんの話だよ」
そこではっとしたようにつばるを見つめる。
「そっか……つばるを……」
「あ?」
かんなは震えながら狂気を孕んだ声で呟いた。
「絶対に私を好きになったりしないつばるを好きになれば良いのかな」
カチカチ……
部屋の隅の目覚まし時計だけが音を奏でる。
「……なんつった今?」
なんだ。
初めての感情だった。
つばるは自分が酷く侮辱されたように感じ、声を震わせた。
その怒りに気づいたかんなが急いで訂正する。
「ちっ、がいます。今私おかしなことを」
「ああ、言ったな。んだそれ」
びりびりと。
人は怒ると何か波を発する。
それは双方の肌をじりじりと焼く。
髪が逆立つような妙な高揚。