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もうLOVEっ! ハニー!

第8章 優越鬼ごっこ

 朝の結露にうっすら白んだ窓にもたれ、奈己は同居人の寝顔を眺めた。
 すやすやと無防備に。
 シーツからはみ出た素足は腿まで露になっている。
 短い指先がときどきぴくりと動く。
 なんの夢を見てるんでしょうね。
 奈己は床を踏みしめて近づいた。
 前髪を指で分け、幼い顔を見つめる。
ー親友じゃダメか?ー
 過去の亜季が言う。
ーその……ルカのこと相談できるの奈己しかいないし……奈己とは友達でいたいからー
 なんて残酷な天使。
 たった今はね除けた好意を上塗り。
ー……そうだね、そうしようかー
 本気で諦めたと思ってる?
 少しずつシーツを剥がす。
 細い肩、脇腹、腰。
 程好く焼けた肌。
ーそんなにルカが好き?ー
 尋ねたときの表情は忘れられない。
 真っ赤で、幸せそうで。
 ……ムカついたよね。
ー奈己~、今年も同じクラスだねー
ーまぁたピアノ弾いてるー
ー指長くて羨ましいよー
 重ねた手のひら。
 移ってきた温度。
 朝日を浴びながら、上体を傾ける。
 そっと亜季の頬に口づけをした。
 一瞬の我が儘。
「……ん」
 ぱちぱちと粒羅な瞳が瞬く。
「おはよう、亜季」
「奈己は早起きだね……」
 目を擦りながら。
「亜季の寝顔を見るためだよ」
「やだぁ~何も面白くないよ」
 いつものオカマ口調で。
 二人はくすくす笑い合った。

「うわ。見るからに超絶不機嫌うっざ」
「てめぇは人を苛つかせるために生きてんのか? じゃあ、しねよ」
 出会い頭で罵倒が飛び交うのは、早乙女つばると村山薫の二人だ。
 あれ以来猫をかぶることも省略するようになった薫が、ことある毎につばるに突っ掛かる。
 登校前の寮玄関でお互いに靴を履く。
「あんたって友達いないの?」
「てめぇの取り巻きよりはマシだけどな。つか先行けよ」
「バスケで一気にモテたくせに全部無駄にしちゃって。ばっかみたい」
「なんで知ってん……ああ、そうか」
 薫もアイドル化し、女子の中心に常にいることを思い出す。
 靴箱にもたれて中々外に出ようとしないつばるに薫が詰め寄る。
「バカんな待ってんの? 嫌われてんのに? なんであんな子にこだわってんの? 本気で彼女にしたいわけ?」
 壁に突かれた手を一瞥して、つばるは笑った。
「女に壁ドンされるとか、笑える」
「じゃあ、これは?」
 反応する間もなく唇が重なった。

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