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もうLOVEっ! ハニー!

第8章 優越鬼ごっこ


 そういえば初めてでした。
 この二人が二人きりでいるなんて。
「お、おはようございます」
「おはよう、かんな」
「……くそ」
 なんで出会い頭に悪態吐かれなければならないのかは放っておきましょう。
 私はまだつばるにどう接するべきか見つけられていませんでした。
 始業まで二十分。
 靴を履こうと下駄箱に歩み寄る。
「かんな」
「はい?」
「早く来いよ」
「はい、はい?」
 つばるが玄関を出ていく。
 あれ。
 約束なんてしてませんが。
 一緒に行くということでしょうか。
「くくっ……からかっちゃったかな」
 隆人の言葉に振り返る。
「なにかあったんですか」
「ねぇ、かんな。さっき薫ちゃんとつばるがキスしていたんだけど二人は付き合ってるの?」
「え……」
 かたん、と靴が手から落ちる。
 それは断じてありえません。
 でも、口から出たのは違う言葉。
「キス、してたんですか」
「そこの壁にもたれて。僕が来て急いで薫ちゃんは逃げたけどね」
 まさか。
 まさかまさか。
 黒い雲がもくもくと。
 あの薫までいじめようと……
 無理矢理のキスだとしたら?
 私の時のように。
 心が黒く染まっていく。
 なんでしょう。
 虚無。
 あれほど気にしていた自分が世界一の間抜けのようで。
「……薫さんにまで……」
「いま、なんて?」
 隆人が笑いを噛み殺しながら近づく。
 細い肩を撫でて。
「……二人は、付き合ってはないと思います。ただ……多分つばるが勝手に」
「かんなもキスされたの?」
 びくりと肩が強張る。
「あ……」
「そっか」
 涙がじわりと滲む。
 何の涙がわかりません。
ー私のことを決して好きにならないつばるを好きになればー
 自分の言葉が揺れる。
 ぽたぽた。
 あれれ。
 止まりませんね。

「かんな、おは……」
 廊下から出てきた湯浅美弥が見たのは、隆人に優しく抱き締められて、腕をその背中に回すかんなの姿だった。
 ふっと表情が消える。
 何も、見なかった。
 美弥はよろよろと後ずさって静かに自室に戻っていった。
 いつものように飛び付いて、二人を引き剥がすことが出来なかった。
「にゃはは……クソヤロウ」
 ベッドに横たわり、美弥は泣きつかれた眼を更に潤ませた。

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