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もうLOVEっ! ハニー!

第9章 本性探し


 ひょこひょこ。
 刺激が走らないように、でもなるべくいつも通りに歩く。
 一センチほどえぐった針は、保健室に保管されました。
 職員会議に回されるのでしょうか。
 それとも無視して廃棄。
 半時間遅れで教室に入ると、古典の授業の最中だったようで、教師が二三言かけてくれた。
 長い息を吐きながら着席する。
 誰でしょうね。
 前まではクラス全員を疑いましたけど。
 てゆーかクラス全員犯人でしたけども。
 ちら、と村山薫を見る。
 板書を眠そうに書き移す猫。
 その皮何枚持ってるんですか。
 証拠もなく疑っても疲れるだけ。
 授業に集中しましょう。

「ちょっと来い」
 今日はよく呼び出される日ですね。
 つばると渡り廊下のベンチに向かう。
 座れ、と手を差し出されたので腰かける。
「村山か?」
「なにがですか」
「兄貴から聞いた。針仕込んだのあいつなんじゃねえのかって」
「お喋りな陸さんです」
「心当たりは」
「生まれただけでいじめられてたのでなんとも」
「真面目に答えろっ」
「真面目になんて考えてらんねーんです!」
 お互い声を荒げたことにハッとする。
 幸い他の生徒は見ていなかったようだ。
 こんなことしてたら益々狙われます。
 経験談です。
 ええ。
「……だったら貴方も繋がってるんじゃ」
「あ?」
「昨日、朝です。隆人さんが教えてくれました。村山さんとキスしてたみたいですね。どの面下げて彼女をいじめっ子呼ばわりですか。類は友を呼びますねえ」
「あれはあいつが」
「なぜ?」
 なぜ?
 そんな言葉が口から出たことに驚く。
 そんなどうでもいいこと。
 むきになって。
 バカみたいな自分。
「お前に言う必要あんのか?」
 プツン、とブレーカーが落ちたみたいに世界の色が一瞬で消え失せる。
 これ、か。
 私が美弥さんに味あわせた感覚。
 同じ台詞を今朝吐きましたね。
 そして美弥さんも同じようにむきになっていた。
 それこそなぜ?
「……ねーですね。戻ります」
 立ち上がろうとして痛みに膝が抜ける。
 がくん、と落ちた上体を力強い腕が支えた。
 後ろから抱き抱えられるように。
「離して」
「礼もねえの?」
 パッと離れた手を目が追う。
 名残惜しくなんかないのに。
「……どうも」
 ひょこひょこ。
 間抜けな歩き。
 逃げるみたいに。

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