もうLOVEっ! ハニー!
第10章 甘い笑顔と花束
頭が痛い朝だった。
喉も嗄れてたし、多分夏風邪なんだろうと思いながら歩いていた。
下駄箱から上履きを取りだし、履き替えながらかんなの場所を確認する。
いじめ、ねえ。
早乙女つばるは口を曲げて階段に向かった。
中学校でのかんなに対するそれは、一年生の時から始まっていた。
きっかけは誰も覚えていない。
気がついたら、誰もが彼女を避けるようになっていた。
元から女子とつるんだりしなかったし。
そんな様子もさほど異常には感じなかった。
二年生に上がってからは一変した。
滑り止めを踏みながら一段ずつ進む。
そうだ。
安倍舞花のグループに目をつけられてしまったんだ。
体育の時に、見学していたかんなに勝見博也が面白がって声をかけたせいで。
心配するふりをして。
それをかんなは冷たくあしらった。
いや、今でこそ思えば、精一杯感謝を込めた返しだったのかもしれない。
避けられているという現状を知った上で、勝見が巻き添えにならないようにと。
足音が大きくなる。
イライラしてきた。
そこからは女子全員の団結が凄かったな。
ヤった女の全員がかんなの悪口を言っていたんだから。
次は何を言う。
そんなことを考えながら服を脱がしたこともあった。
見えてきた全体像の中心が櫻井柚。
普段は舞花に指揮を執らせ、自分は教師から見咎められぬよう振る舞う。
卒業式の鉛筆削りが初めてだったか。
それまで直接手を出せなかった櫻井にとって、笑いながら頭を狙えるくらい爽快だったんだろう。
血が流れた瞬間、鳥肌立った。
ああ、馬鹿が。
なんでこれを予想しながら来たんだ、お前。
そう怒鳴りたかったのを、一瞬で忘れた。
あの時かんなは、うっすら笑ってたから。
初めて女が怖いと心から思った。
飛び出してハンカチを渡したのも、あんな笑顔など嘘だと記憶を上塗りしたかったから。
階段を上りきって、廊下に足を踏み出す。
水音が響く廊下に。
過去が流れて去っていく。
珍しい。
水道で花瓶の水を替える後ろ姿。
美化委員か。
無視して過ぎようとしたら、急に振り向いた彼女にぶつかってしまった。
「あっ」
「っ、と。溢れたか? わり」
黒髪を耳に掛けつつ此方を見上げた瞳の強さに、なんとなく射竦められた。
「ごめんなさい。ぶつかっちゃって」
凛とした声。