もうLOVEっ! ハニー!
第10章 甘い笑顔と花束
うちのクラスじゃない。
「雑巾取ってくるか?」
水滴の散った床を見て言う。
「いえ。そのうち乾くんじゃない?」
美化委員じゃないっぽいな。
水の量が明らかに多すぎな花瓶。
濡れた腹部。
慣れてる仕事じゃないんだろう。
「アリスー? なにやってんの」
「あ、ごめん。すぐ行く」
隣のクラスに呼ばれた彼女は、ぺこりと頭だけで礼をして走っていった。
長い黒髪を舞わせて。
なんとなく、理由もそれほどなく、かんなに似ているなと思った。
表情が少ないところ。
実態が掴めない態度。
「……びちょびちょじゃねーか」
床を足で擦って、教室に入った。
「つばるー。お前今、御巫アリスと話してなかったか?」
早目に登校したつもりだが、教室には四人ほど男子が机を囲んでいた。
そのうちの一人、三鷹恭平が声をかけてきた。
確か、かんなの隣の席だ。
「誰? 知り合い?」
「ああ。オナチューだったから」
「へえ」
特に興味もなく席に着くが、恭平は違うらしく、わざわざこちらにやってくる。
「あいつさ、男と話さないんだよ。だから珍しくて。何話してたんだ?」
「別に。ぶつかっただけ」
こいつ、俺と絡むの嫌がってたよな。
つばるは記憶を辿りながらやる気なく相槌を打ってやる。
「ふーん。アリスはさ、女にしか目がないんだ」
「へえ」
「中学の時に三人くらい食ったらしくて」
「すげえ」
「ターゲットの子は、まず下駄箱にアリスから贈り物されるらしいんだ。それが何かは知らねえけど。だからなんつうの? そゆの含めて謎めいた奴だったわけ」
「そうか」
流石に反応が悪すぎたのか、恭平は仲間のグループのところへ戻っていった。
しかし、つばるの脳内は一気に回転を始めていた。
御巫アリス。
かんなの下駄箱の一件が重なる。
いや……まさか。
好きな子を虐める心理には理解を示したいが、蜘蛛とか針とか仕込むのは狂人の粋だろ。
そういうプレイはせがまれたがヤったことはない。
痛みを与えて、与えられて何が楽しいんだ?
無理矢理押さえつけるのはまだわかるが。
携帯を開いて兄にメッセージを送る。
「御巫アリスって知ってる?」
丁度見ていたのか、すぐに返信が来た。
「おー。美人だろ。一人宝塚のクラスの御巫アンナの妹だ。それがどした?」
姉妹?
新たな情報をどう扱うべきか図りかねる。